|
シャトルから降り立ったギルバートを出迎えてくれたのはラウだった。 「……何をしているんだ、あのバカは」 ギルバートの後に続くように出てきた人影を見た瞬間、彼はこう吐き捨てる。 「変装だろう」 成功しているかどうかは別問題として、とりあえずやらなければならないことではないのか。ギルバートはそう言う。 「確かに、そうかもしれないが……」 だが、あれでは不審人物として当局に通報されてもおかしくはないだろう。そう言ってラウはため息をついた。 「おかげで見失わないですんだよ」 ちょっと視線を向けるだけでそこにいるのがわかるからね……とギルバートは笑う。 「影の主役がいなければ、意味がなくなるだろう？」 せっかくの準備も無駄になる。そう付け加えればラウもまた笑いを漏らした。 「そうだな。あの方ががっかりされる」 せいぜい踊ってもらわなければいけないからな、と彼は自分に言い聞かせるように付け加える。 「もちろん、あれに協力をしたバカにも、だね」 もっとも、そちらはもっと合法的に鉄槌を食らわせる予定だが、とギルバートは囁く。 「既に、それに関するミッションは始まっているそうだよ」 何やら、ものすごく楽しげに指示を出していらっしゃる方がいたな……と付け加える。 「……何度も邪魔をされたから、だろうね」 徹底的に根絶をするつもりなのだろう、とラウは頷く。 「少なくとも、評議会関係に手を出せないように改革をするべきだろうね」 軍の方はもっと簡単に片を付けられるから。彼はそうも付け加えた。 「……どうしてか、は聞かない方がいいだろうね」 ため息とともにギルバートは言葉をはき出す。 「君が想像しているとおりだろうから、ね」 どこでも不幸な事故というものはあり得るのだから。ラウはそう言って笑みを深めた。 「あぁ、わかっていると思うが……」 「キラには内緒にしておくよ。たとえ自業自得の事故でも、人の命が失われたと知れば、あの子は悲しむだろうからね」 もちろん、ラウが実際に手を下したとわかればどうなるか。 それに関してはある意味お互い様だから、あえて何も言わないようにしておくべきだろう、と心の中だけで呟く。 ラウにしても、それは同じだったらしい。 この程度の暗黙の了解であれば、声に出す必要はない。それは大人としてだけではなく、友人として付き合ってきた時間があるからだ。 「というところで、そろそろ移動しようか」 あちらの準備も出来たようだし、とラウが笑いながら付け加える。 「ずいぶんと時間がかかったね」 もっとも、行く先を知らないのだろうし、ここに早々都合がよい立場のブルーコスモスの関係者がいるとは思えない。いや、むしろいない可能性の方が高いのではないか。だから、手間取ったとしてもしかたがないのだろう。 もちろん、自分たちに待っているいわれはない。 だが、これからの計画のためにはついてきてもらわなければいけないのだ。 「ところで、荷物はこれだけかな？」 ギルバートの足元を見ながら、ラウは問いかけてくる。 「あぁ。そう時間はかからないだろう？」 あまり休んでもいられない。おそらく、またメールで仕事の打ち合わせが届いているのではないか。 「かける気もないがね」 サハクからの許可は出ている。 ついでに、オーブでも一騒動起きる予定だし……とラウは付け加える。 「ほう」 「まぁ、それに関しては移動中に説明をするよ」 それに、そろそろ戻らないと、キラ達が心配をする……と少し忌々しそうに彼は告げた。 「普段、一緒にいるからね」 だから、傍にいて当然なのだろう。そう言ってギルバートは笑った。 「……本当に、あの時、君に相談をしてよかったのかどうか、と今更ながらに思うよ」 「確かに。もっと早くに気がつくべきだったね」 ラウのセリフに、にこやかに言葉を返す。 「では、移動しようか」 そして、さっさと歩き始めた。 |