しかし、これはずいぶんと悪辣ではないか。 そうは思うが、確かにこれが一番有効だろう。そうも思える内容だった。 「……誰が考えた計画かはわからないがね」 同時に無邪気さを感じさせるそれに、ギルバートの脳裏にある人物の面影がちらつき始める。しかし、それを確認するわけにはいかない。そんなことをすれば後が怖いのだ。 「何はともかく、久々に二人の顔を直に見られそうだね」 キラはもちろん、レイだって可愛い。だから、帰っても二人の顔が見られないというのが、少しストレスになりつつあったのだ。 だが、とギルバートは苦笑を浮かべる。 「レイの小言が聞けないのが寂しいと感じるとは……ちょっとまずいかもしれないね」 キラの笑みならばともかく、と付け加えた。 それでも、毎日聞いていれば日常になるのだろうか。 「……しかし、ラウのイヤミは聞きたくはないな」 とりあえず、キラを味方につけておけば大丈夫だろう。しかし、この計画では嫌われる可能性が高いような気もする。 「それもねらいかもしれないね」 誰かさんの、と付け加えた。 それは間違いなく、先日の一件に対する報復だろう。 しかし、だ。 「だが、キラの好みは私の方が知っているよ」 そして、彼女の性格も。 「この勝負、最低でも引き分けに持ち込んでみせるよ」 そして、あのバカは永遠にプラントに足を踏み入れられないようにしてやろう……と心の中で呟く。 「その前に、あの子達には何をおみやげに持っていけばいいだろうね」 そちらの方が重要かもしれない。そして、自分にとっては難問に思える。 「……お菓子かな、とりあえず」 子供達が好きそうなものを用意させよう。しかし、それだけでは不十分かもしれない。 「後は何がいいかな」 難問だが、楽しいと思えるのはどうしてなのだろう。そんなことを考えながら、ギルバートは旅行の用意をするよう指示を出すために立ち上がった。 しかし、ここまであっさりと引っかかってくれるとは笑うしかない。 同時に、これで確実に行政府にブルーコスモスの構成員がいることが確認できた。 「……もちろん、ザフトにいないとは言い切れないのだがね」 だが、今回のことに関わっているのは行政府の人間だ。それも、評議会議員に近いところにいるはず。 「あぶり出しは、あちらの方々に任せておけばいいかな」 現在、評議会ビルには怒り心頭の方々がいる。きっと、あの方方が権力を武器に根絶してくれるだろう。 「一匹見つけると、その三十倍はいるといわれているのは、何だったかな」 ラウに聞いてみればわかるだろうか。そう呟きながら、ギルバートはモバイルを立ち上げる。 その瞬間、適当に距離を置きながら――といっても、その存在を悟られていては意味がないのではないか、と思う――も自分の姿が確認できる場所に座っているセンスの悪い人影が確認できた。 「……あれで変装のつもりなのかね」 人相を隠そうという意図はわかる。しかし、それも成功はしていない。何よりも逆に人目を集めているではないか。 「本当に……」 周囲の者がかわいそうになるよ。そう呟くと同時に、ギルバートは彼等の存在をとりあえず意識から追い出した。 シャトルで移動している以上、今は何も出来ないはず。 ならば、先に片づけなければいけないことを片づけてしまおう。 「……それにしても、私はきちんと休暇届を出してきたはずなのだが……」 何故、仕事に関する問い合わせのメールが来ているのか。 「本当に困ったものだね」 ため息とともに中身を開く。そして書かれてある内容を確認した瞬間、ギルバートは小さな笑みを口元に浮かべる。 「おやおや。どうせなら、もっと別のタイトルにしてくれればいいものを」 それとも、これも嫌がらせの一環なのだろうか。 「返信をしなければいけないね」 この呟きと共にギルバートはキーボードを叩き始めた。 |