暇だ、と言うべきなのか。それとも、それだけせっぱ詰まっていると見るべきか。 どちらが正しいのだろうか。 だからといって、優しくしてやるつもりはない。 「……それで、いったい、何のご用でしょうか」 何のアポイントメントもなく押しかけて人の仕事を邪魔した人間に慈悲を与えるほど自分は優しくはない。 そんなことをして許せるのは、キラとレイの二人だけだし。そう思いながら、目の前の人物をにらみつけた。 「私はあなた方のお世話をする義務はありませんが?」 要望があるなら、担当の人間に言え。言外にそう付け加える。 「……ボクは、オーブからの……」 「関係ありません。私の仕事が滞れば、困るのはプラントの人間ですから」 自分がどちらを優先するか、それは言わずともわかるのではないか。 「あなた方とオーブの人間を天秤にかけて、自国の人間を優先するのが当然のことだと思いますが?」 だから、ユウナの話を聞くつもりはない。ギルバートはそう宣言をする。 「うるさい!」 しかし、それは彼の望む言葉ではなかったらしい。即座に癇癪を起こしてくれた。 本当に、どれだけ甘やかされて育ったのか。あきれたくなる。 「そう言われましても、私にはあなた方にお付き合いする義務はないのですよ」 ユウナの機嫌を取る義務も、と言外に付け加えた。 「さっさとお帰りください」 これ以上話をしていても意味はない。逆に時間の無駄だ。 そう判断してこう告げる。そのまま、きびすを返そうとした。 「うるさい! この変態!!」 その時、だ。ギルバートに向かってユウナがこう叫ぶ。 このセリフは予想もしていなかった。そう思いながら、改めて彼の顔を見つめる。 「それは何の根拠があってのお言葉ですか?」 まぁ、根拠については想像がついているが……と心の中で呟く。 「根拠もなくそのようなことをおっしゃるのでしたら、ただの誹謗中傷ですよ?」 もっとも、あなたの考えている根拠が根拠にならないときも同様だ。そう付け加える。 「状況によっては、しっかりと法に訴えさせて頂きますが、その覚悟はおありでしょうね」 もちろん、オーブではなくプラントで……と続けた。 「うるさい! このロリコン!!」 どうやって、キラをたらし込んだんだ! とユウナは叫ぶ。あまりに想像通りのセリフに笑い出したくなる。 しかし、それをするわけにはいかない。 「それこそ人聞きが悪いですね」 代わりに思い切りあきれたような声音で言葉を口にする。 「あの時の状況をまず思い出して頂きたい」 少しだけ厳しい口調で続けた。 「あなたの発言にあの子が反発をして、その勢いで口に出した言葉でしょう?」 逆に言えば、ユウナが何も言わなければキラもあんなセリフを口にしなかっただろう。そう付け加えながら、ギルバートは自分のセリフに少しだけショックを受けていた。 図らずも、ラウの言葉が正しいと自分で認識する羽目になってしまったのだ。 「ボクは真実しか言っていない!」 そんなギルバートの言葉を理解していないのか。ユウナはさらに反論を重ねてくる。 「つまり、あなたは自分がコーディネイターを所有物扱いをしたのだ、とこの場で認められるわけですね」 よりにもよってこの場で、とギルバートは付け加えた。 「そう決まっているんだ!」 本当にどこの駄々っ子だ、と言いたくなる。これでキラよりも年上というのが信じられない。 「では、オーブに確認の連絡をさせて頂きます」 低い声でこう告げれば、ようやくギルバートが怒っているのだとわかったのだろうか。周囲の者達がユウナをなだめにかかった。 「もちろん、上にも、です」 その結果、今回の話し合いが不調に終わっても自分の責任ではない。そこまで言われて、ユウナもようやく状況を飲み込めたのか。表情を強ばらせる。 「それもこれも、お前がロリコンなのが悪いんだろうが!」 しかし、どうしても自分が悪いのだと認めたくないらしい。本当にどうしてくれようか。 「……ラウに確認しましょうか?」 反射的にこう呟く。その瞬間、ユウナが凍り付いた。 「それとも、レイ達が言っていた従兄の方がよろしいでしょうか」 虎の威を借りるようで気に入らないのだが、と心の中で呟く。しかし、ユウナが本当に、じりじりと後退していくのを見れば適切な言葉だったのかと思い直す。 「覚えてろぉ!」 そうしている間に、彼はこう叫ぶと脱兎のごとく駆け出していった。 「ユウナ様!」 その後をSP達が追いかけていく。 「本当に何をしたのだろうね」 ラウ達は。その背中を見送りながらギルバートは付け加えていた。 |