ギルバートの話を聞き終わった瞬間、ラウは額を抑える。 「バカだ、バカだとは思っていたが……ここまでバカだとは思わなかったよ」 よりによって、一番重要な式典の場でそのような爆弾発言をしてくれるとは……と深いため息とともに彼は言葉をはき出した。 「サハクとマルキオ師には連絡をつける手はずは整えたが……問題はアスハに連絡がつかないことだよ」 何故か、正攻法では途中で邪魔が入る。アスハにこそ連絡を取りたいのだが、とそうも付け加えた。 「……なるほど」 その言葉に、ラウは納得したというように頷いてみせる。 「要するに、私にアスハと連絡を取らせたいわけだ」 急に呼び戻した理由の一つは、と彼は続けた。 「それもあるが……やはり、あの二人のことがね」 今日のように急に押しかけてくるだけならばいい。最悪、実力行使にでてくれる可能性も否定できない。そう告げれば、ラウは苦笑を深めた。 「そこまでバカではないだろう……と言ってやる気にもならないしね」 ここまで馬鹿な言動をされてしまえば、と彼は続ける。 「それに、私にとって大切なのはあの男ではない。もちろん、オーブでもないね」 キラとレイ。 あの二人が幸せに暮らしていけること。それだけだ。 そう言いきるラウに、ギルバートは微笑みを向ける。 「私も、そこまで言い切れればね」 そのまま、呟くようにこう告げた。 「しかたがあるまい。君には君の立場がある。当然、様々なしがらみもあるだろう?」 しかし、自分にそれはない。あったとしても、キラ達のためであればいくらでも断ち切れる。それだけだ。ラウは言葉とともに穏やかな笑みを浮かべる。 「もっとも、君の立場を利用させて貰っていることは否定しないがね」 でなければ、とっくにザフトを除隊しているだろう。その表情のまま彼は言葉を重ねる。 「もちろん、私の立場であればいくらでも使ってくれて構わないがね」 あの二人は自分にとっても大切な存在だ。そう言ってギルバートは頷く。 「それに関しては、無条件で利用させてもらうよ」 しかし、気がつけばギルバート以外に手を貸してくれるものも増えているようだが……とラウは意味ありげな声音で付け加えた。 「ラクスさまはキラがお気に入りだからね」 昨日からそちらに避難をさせて貰っている。そう口にすれば、ラウはどこかほっとしたように頷いて見せた。 「あの方の所なら、ユウナも迂闊に手出しは出来まい」 押しかけでもしたら、即座に彼女のファンに袋だたきに会うだろう。それだけならばまだしも、国民感情が最悪なことになるのは目に見えている。 「自分のせいで国交断絶という状況になるのを受け入れられるとは思えないからね」 だから、彼女の元にいるのであれば、当面は安全だろう。 しかし、それがいつまで続くかはわからない。 「それ以上に気になることがあるのだが、ね」 言葉とともに、彼はギルバートを見つめてくる。 「何かな?」 彼が何を言いたいのか想像がつくような気がするのは錯覚だろうか。 「あの子があんなセリフを口にしたからといって、真に受けているわけではないだろうね?」 ユウナに対する嫌がらせだと言うことはわかっているだろう? と彼は言葉を重ねる。 「何を言っているのかな?」 小さな笑いと共にギルバートは言い返す。 「キラの中に、可能性として存在していたからこそ、とっさに口から出た……とは思わないのかね?」 少なくとも、ラウの名前は出なかった。そうも付け加える。 「あの場に私がいなかったから、だろうね」 でなければ、キラは絶対自分の名を出していたはずだ。ラウはそう断言をする。 「どうだろうね」 そう言う対象としてみていられない可能性はないのか。即座にこんな疑問を投げつける。 「それはあり得ないね」 だが、ラウはあっさりとそれをたたき落とした。 「あの子の中で、私が家族というカテゴリーの中にあるということは否定しないよ。だが、それと結婚に関しては別だからね」 少なくとも、婚約の話が出ていたことは忘れていないだろう。 「それがなければ《男》として認めてもらえないと言うことかな?」 小さな笑いと共に言い返す。 同時に、これからの舌戦。絶対に負けるわけにはいかない、と心の中で呟いていた。 |