しかし、ここまで厚顔無恥な行動を取ってくれると笑うしかない。
「何のお約束もしていなかった、と記憶していますが?」
 それでも表面上は感情を出さずにこう問いかける。
「それとも、オーブではこれが正しい礼儀なのでしょうか」
 さらにこう付け加えれば、相手はギルバートをにらみつけてきた。
「そもそも、お前がキラを隠すから悪いんだろうが!」
 即座にユウナがこう言い返してくる。
「隠すも何も……あの子は熱を出していたから落ち着ける場所に移動させただけですが?」
 医師もそうした方がいい、と言っていたので。そう言葉を返しながらギルバートは相手をにらみ返した。
「それとも、体調不良の人間を放置しておけと?」
 万が一のことがあったらどうするつもりなのか、とそう聞き返す。
「コーディネイターはその程度では死なないんだろうが!」
 そうするためにコーディネイトされるのではないか、とユウナは叫び返す。その言葉に、ギルバートはわざとらしいため息をついてみせた。
「オーブ五氏族の後継ともあろう方が、そんな間違った知識しかお持ちではないとは」
 どう反応すればいいのか、とまたため息をつく。
「……何が言いたい……」
 どうやら、ギルバートがユウナに対しあきれている――正確に言えば、その段階はとうの昔に通り越している――と言うことは認識したのか。ユウナがこう聞き返してきた。
「おや、おわかりにならないと?」
 本当にコーディネイターについて何も知らないと見える。そう付け加えるが、内心では『何も知ろうとしなかったくせに』と吐き捨てていた。
「貴国の、コーディネイターにかんする知識は偏って教えられているようだ」
 だから、オーブからプラントへの移住者が減らないのか……と付け加える。
「コーディネイターは病気にかからないわけでも体調を崩さないわけでもないのですよ?」
 たんに、普通のナチュラルよりも少しだけ丈夫な体を持っているだけだ。だから、病気にもかかるし、体調も崩すこともある。
 その時に、適切な対処を取らなければ、命に関わることもナチュラルと同じだ。
「まだ、完全に成長しきっていない子供であればなおさらですよ」
 そして、第一世代であれば……とギルバートは付け加えた。
「この程度のこともご存じないとは……本当にあきれますね」
 憐れむようにこう口にした瞬間、ユウナの理性はあっさりときれたらしい。
「いい加減にしろ! この顔がいいだけの人形が!!」
 言葉とともに殴りかかろうとしてくる。そんな彼を必死に警護の者達が止めようとしていた。
「その顔で、キラをたぶらかしたのか!」
 その手をふりほどこうとしながらさらにユウナは叫ぶ。
「おやおや。そんなにキラに振られたのを認めたくないのかな」
 その事実を認めたくない気持ちはわかる。しかし、現実は現実だ。
「それもこれも、君が《コーディネイター》について正しい知識を知ろうとしなかった結果だと思うのだが?」
 それを自分のせいにされても困る。そう締めくくった。
「ボクはそんなこと知らなくてもいいって、みんながそう言ったんだ!」
 それを鵜呑みにしているから、貴様はそこまでバカなのだ。そう言いたくなる気持ちを、ギルバートは必死にこらえる。
「自らを己や周囲の者が作った檻の中に閉じ込めては、どのような女性からも見捨てられると思うが?」
 しかし、代わりというように別の声が周囲に響く。
「お帰り、ラウ」
 予想以上に早かったね、とギルバートは視線を声の主へと向けた。
「ちょっと無理はしたがね」
 だが、その甲斐はあったようだ。そう言いながら彼は壮絶とも言える笑みを浮かべながらユウナを見つめる。
 その瞬間、彼の肩が大きく揺れた。
「ボ、ボクは……諦めてないからな!」
 次の瞬間、こう叫ぶと彼は周囲の者の手を振り切ってきびすを返す。そのまま脱兎のごとく駆け出していった。
「……相変わらずだね、本当に」
 その背中をラウは冷たい視線で見つめる。
「そうなのかな?」
 昔から、あんな風にバカだったのか。言外にそう問いかけた。
「あぁ。サハクの双子と何度か教育的指導をしてきたのだがね」
 どうやら、その事実だけは覚えていたようだね、と笑いながら言い返してくる。
「だが、いいタイミングだったようだが?」
「それは否定しないよ」
 もっとも、とギルバートは言葉を重ねた。
「踏み込まれても、連中はキラを見つけることが出来なかっただろうがね」
 彼女たちはここにいないから。そう付け加えれば、ラウは「だろうね」と言い返してくる。
「とりあえず、どのような状況になっているのか。それを教えてくれるかな?」
 それから対策を相談しよう。それはもっともな要求だ。
「そうだね。とりあえず落ち着いて話が出来るところに移動しようか」
 この言葉とともに、ギルバートは体の向きを変えた。







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