その理由は、直ぐにわかった。
「ダメじゃないか、キラ」
 予定外のことに準備に手間取っていたときだ。どこからともなくユウナがわいてでた。
「話があるって言っただろう?」
 そう言いながら、彼は真っ直ぐにキラの方に歩み寄ってくる。しかし、その行く手を遮るかのようにアスラン達が立ちふさがった。
「まだ、演説は続いていますが?」
 そう言ったのはラスティだ。
「なら、何でお前達は……」
「キラが具合悪くしたからだろう」
 風に当たれば少しは気分がよくなるのではないか。そう判断したから、とアスランが言い返している。
「第一、そこも会場の中だ。別に咎められることではない」
 キラの具合がよくなることの方が優先だしな、とイザークが言う。
「そうそ。女性が具合を悪くしてテラスに出るというのはよくあることだろう?」
 さらにディアッカもからかうように言葉を口にする。
「それを邪魔するのは野暮だよな」
 女性には女性特有の事情というものもあるだろうし、と言われて、キラは首をかしげている。
「今はまだわからなくてもいいのだよ」
 そのうちちゃんと理解できるようになる、とギルバートは彼女に微笑む。
「それよりも、顔色が悪い」
 口実ではなく、本当に。そう付け加えると、ギルバートは彼女へと手を伸ばす。そして、そのままためらうことなく抱き上げた。
「ギルさん?」
「この方が楽だろう?」
 何を、と問いかけられる前に彼はこう告げる。それはもちろん、ユウナを牽制するためだ。
「お前!」
 それにまんまと引っかかってくれた、というべきなのだろうか。ユウナの顔がいきなり怒りで染まる。
「キラに何をしているんだ!」
 そのまま、こう叫ぶ。その瞬間、周囲の者達の視線が一斉に彼に向けられたことも気にしていないようだ。
「キラはボクのおもちゃだったのに!」
 さらにこんなセリフまで口にしてくれている。
「好きにしていいって、父上が」
 このオコサマは、自分がどのような失言をしてくれたのかわかっているのだろうか。」
 きっとわかっていないだろう。もっとも、それはそれでこちらにとって都合がいいが。そう考えてしまう自分はきっと、汚い大人なのかもしれない。ギルバートはそう思う。
 もっとも、彼女には自分がそんなことを考えているとは知られたくないが。心の中でそう付け加える。
「……僕は、ものじゃないもん」
 絶対にいや、と呟くとキラはギルバートにすがりついてきた。
「オーブに帰るくらいなら、ここでギルさんのお嫁さんにしてもらうもん」
 そうすれば、無理矢理連れ帰られることはないはずだから……そうも彼女は叫ぶ。
 もちろん、それは追いつめられた空の叫びなのだろう。
 しかし、だ。
 愛おしい存在にそう言われて嬉しくない男がいるだろうか。
「そうだね。キラがそう望むのであれば、私に嫌はないよ」
 無条件で婚約をさせて貰おう。そう甘い声で言葉を返す。
「一応、これでも評議会議員の一員だしね。少なくとも、立場上では問題はない」
 もっとも、ラウには殴られそうだが……と苦笑と共に付け加えた。
「ともかく」
 それについては後で考えよう。だが、その前に……と思いながらギルバートはユウナをにらみつける。
「あなたは親善にいらしたのですか? それとも、コーディネイターキラは自分のおもちゃだと宣言されにいらしたのですか?」
 前者ならば、大人しく自分の席に戻れ。後者なら、このまま国交断絶の口実にさせて頂くが? と言外に付け加えた。
 その言葉にかんして、周囲から同意の意が伝えられる。
「……あっ……」
 流石に自分の置かれた状況に気がついたのだろう。ユウナは『しまった』という表情を作っている。
 周囲にとげとげしい空気が満ち始めた。
 この状況をユウナはどう打開するのだろうか。それを楽しみたいという気持ちがないわけではない。だが、そこまで追いつめてはさらに厄介な状況になるのではないか。
「さっさとお席に戻られてはいかがですか?」
 だから、と逃げ道を示してやる。
「ボクは認めないからな!」
 まさしく捨てゼリフという表現がしっくりと来る言葉を残すと、ユウナは身を翻す。
「本当に困ったものだね」
 その後ろ姿を見送りながらギルバートは吐き捨てるように口にした。
「だって、あの人ですから」
 そう言ってきたのはレイだ。
「とりあえず、気をつけた方がいいでしょうね」
 小さなため息とともにラスティが告げる。それに誰もが同意を示した。







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最遊釈厄伝