乾杯の準備と共にキラとラクス、それに子供達はさりげなく移動を開始していた。もちろん、ギルバートもだ。
 この状況で彼の行動を咎めるものはいない。
 本来であれば、他にやるべきことがあるのだが、先ほどの一件を目にしていた者達がそれを肩代わりしてくれているようだ。
 後で、それなりのお礼をしなければいけないだろう。同僚達の姿を見つめながらギルバートはそんなことを考える。
 もっとも、と心の中で付け加えた。この状況で自分をキラから引き離すようなことをするような人間はいないだろう。そんなことをすると、人でなしを言われかねまい。
 時々向けられるすがるような視線に微笑み返しながらそうも思う。
「……あら、困りましたわね」
 その時だ。いきなりラクスが小さな呟きを漏らす。
「どうしました?」
 彼女が忌々しそうに眉を寄せているとことを見るのは初めてかもしれない。そう思いながらギルバートは聞き返す。
「ドアの所に、オーブの護衛の方がいらっしゃいますの」
 何故でしょうか、と首をかしげている。
「そんなはずはないのですが」
 だが、確かにオーブの軍服を身に纏った人間が入り口の所に立っていた。
「とりあえず、移動して……」
 ギルバートがそう言おうとしたときだ。
「姉さん」
 不意にレイがキラの袖を引く。
「あそこにいるのはトダカさんじゃありませんか?」
 自分ははっきりとは断言できないが、と彼は告げた。その言葉に、キラもようやく顔を上げる。そして、相手の顔を見つめた。
「そう見えるね」
 そして、こう呟く。
「知り合いなのかな?」
 二人の表情から判断をしてそうなのだろう。そう思いながらも問いかける。
「はい」
 それにキラは小さく頷いて見せた。
「……きっと、使節団の護衛としてこられたと思うのですが……」
 でも、どうしてあそこにいるのかはわからない。キラはそうも続ける。
「聞いてみられるのが一番いいのでしょうが……」
 だが、そのせいでユウナに目をつけられるとまずい。ではどうするか……とラクスも首をかしげる。
「いっそのこと、連れ出してしまえばいいんじゃないですか?」
 こう言ってきたのはラスティだ。
「そうだな。ようは、あれをシャットアウトすればいいんだから……顔見知りの人間とは話をしても構わないんだろう?」
 アスランがこう言いながらキラの顔をのぞき込む。
「……うん」
 それに彼女は小さく頷いて見せた。
「なら、先に誰かが声をかけて……それからキラ達を外に逃がす方がいいのかもしれレないな」
 会場から出てしまえば、ザフトの人間のフォローも得られるだろう。いくらユウナでも、迂闊に近寄れないのではないか。イザークはそう告げる。
「でも、俺たちが声をかけても警戒されるだけじゃないか?」
 ディアッカが首をひねりながら言葉を口にした。
「……協力して頂けるなら、僕があの人に声をかけます」
 一瞬悩むような表情を作った後、レイがこういう。
「レイ?」
「大丈夫です。僕ならきっと目立たないですから」
 というよりもユウナも注目をしていないだろう。そう彼は続けた。あくまでも、あの男のねらいはキラなのだし、とも付け加える。
「一人なら危ないかもしれませんけど……二人以上であれば、大丈夫じゃないかと」
 トダカの真意を知る方が優先ではないか。ひょっとしたら、両親からの伝言を預かってくれているかもしれない。
「……でも、危ないよ……」
 キラは不安を隠せないという表情でこう言い返す。
「……しかたがない。付き合ってやろう」
 自分が傍にいれば、この場にいるザフトの人間が動いてくれるはずだ。そう言ってきたのはイザークだ。
「そう言うことなら、俺も一緒に行くか」
 さらにディアッカも口にする。
「お二人が一緒だから、大丈夫ですよ」
 安心してくれ、とレイはキラに微笑みかけた。
「……うん……でも、無理はダメだよ?」
 渋々、キラはこう告げる。それにレイはしっかりと頷いて見せた。







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