そうしている間に準備が整ったのだろう。一段高い場所にシーゲルがシーゲルを姿を現した。
 その瞬間、周囲の者達は表情を引き締める。
 もちろん、ギルバート達も同様だ。視線をそちらに向けながら、口をつぐむ。
 もう一つ人影が壇上に上がる。
 その瞬間だ。ギルバートの服の裾を掴んでいたキラの指に力がこもったのは。
 いや、彼女だけではない。表情こそ崩さないものの、レイが身に纏っている空気もやはり緊張を孕んでいた。
「……セイラン、だったか」
 確かあの男は、とギルバートは呟く。
「ウナト、さま……でしたかしら?」
 それに言葉を返してくれたのはキラではなくラクスだった。
「そう、です」
 嫌そうな口調でレイが同意の言葉を口にする。
「セイラン家の現当主、ウナト様です」
 死んでくれてもいいのに、と続けられたような気がするのは錯覚だろうか。
 そのまま、彼はさりげなく両手でキラの耳を塞いだ。
「でも、本当に厄介なのは息子の方です」
 キラにちょっかいをかけてきたのはそちらの方だ。しかも、彼の場合、キラに恋愛感情を抱いていたわけではない。見目よい人形を側に置いて好き勝手に愛でたいという感情が近いような気がする。
「あきたらブルーコスモスの人間に渡せばいい、と彼が言っていたのを聞いた人がいます」
 だから、余計にキラの側に近づけたくないのだ。そう言ったところで、彼はキラの耳から両手を放した。
「……レイ?」
 何の話をしたの? とキラが彼をにらみつける。
「あぁ。ちょっとキラには聞かせられないような悪態をついていただけだよ」
 苦笑と共にギルバートはそう言った。
「まぁ、それに関してはあとでゆっくりと話し合おうね、レイ」
 言外に、自分が注意をするから……とギルバートは付け加える。もちろん、それは二人だけでゆっくりと話をするための口実だ。
「……でも、それをラクスに聞かせたの?」
 だが、キラはまだ納得できないらしい。レイにこう問いかけている。
「あぁ、気にしなくていいですわ、キラ。もっと酷いことを口にされる方がいますもの」
 そこに、とラクスはわざとらしく視線をアスランへと向けた。
「そうなんだ」
 キラが冷たい口調で問いかける。
「キラ!」
 それにアスランが慌て出す。
「……アスランって、そう言う人だったんだ」
 だが、キラはこう言い切った。
 もちろん、他の者達はそれがラクスの嘘だと知っている。しかし、あえてライバルの株を上げてやろうという気にはならないようだ。
「まぁ……アスランも男の子だから……多少は見て見ぬふりをしてやってくれないかな」
 辛うじて、ラスティがこう言っている程度だ。
「ラスティ……」
 アスランが、一瞬、嬉しそうに彼を見つめる。
「第一、好きな子ほどいじめたい、というだろう?」
 しかし、次の瞬間、しっかりと突き落とされたようだ。ショックを隠せないという表情のまま固まってしまった。
「まぁ、そう言うことだな」
 これ幸いとイザーク達もアスランを蹴落としにかかる。
 オコサマ達の足の引っ張り合いに参加するほど自分は愚かではない。だから、とギルバートはどこか微笑ましいといった表情でそんな彼等の様子を見つめていた。
「バカは放っておきましょう」
 くすくすと笑いながら、ラクスがキラの手を取る。
「それよりも、そろそろお父様の演説が始まりますわ」
 だから、少し場所を移動しないか。さらに彼女はこう付け加える。それはきっと、ギルバートが少し彼女たちから離れなければいけない、とわかっているからだろう。
「うん」
 こういう場所ではラクスの言葉に従った方がいい。キラの中ではそう認識されているのだろう。彼女は素直に頷いてみせる。
「では、こちらに。レイ様とラスティ様もお付き合い頂けまして?」
 ラクスがそう言ったときだ。不意に周囲がざわめき出す。
「何が」
 その状況に、アスラン達も諍いをやめる。
 さりげなく、ディアッカが声のする方向へと足を踏み出した。その瞬間だ。
「ここにいたんだ、キラ!」
 久しぶりだね、といいながら人混みから一つの人影が姿を現した。







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最遊釈厄伝