不意に入り口の方が騒がしくなる。 「どうやら、オーブの方々がお着きになったようだね」 ギルバートがこういった瞬間、キラの表情が強ばった。 「大丈夫だよ、キラ」 そんな彼女の体をギルバートは入り口から隠すように引き寄せる。 「とりあえず、ここは目立たないはずだ」 他の人々が壁になって近寄らなければあちらからは見えないはずだ。そして、事情を知っている者達が必要なときまで壁を作り続けてくれているだろう。 たとえ、彼等の下心が何でも今はその協力を受け入れるべきか。 「……はい」 ギルバートの言葉にキラは小さく頷いてみせる。 「そうだよ、姉さん。僕が傍にいるから」 レイがそう言いながら、キラの手を握りしめた。 「うん、レイ……ありがとう」 それに、キラは小さな笑みを浮かべる。 「わたくしもおりますわ。いざとなったら、控え室に行きましょう」 そこには、自分の許可がなければ誰も入れない。だから、安全だ。そう言って微笑む。 「もちろん、アスラン達も、ですわ」 さらに彼女は笑みを深める。 「ラクス!」 「何か文句がありまして?」 女性には、男性の前では出来ないこともあるのだ。それをするのに自分の控え室を貸して何が悪いのか。文句を言ってきたアスランに、ラクスはこう言い返す。 「それは……」 この反論にはアスランも返すべき言葉を見つけられないらしい。 「確かに、女性にとっては切実な問題だよな」 うんうん、とさらに追い打ちをかけるようにラスティが頷いてみせる。 「確かに。それは最低限の礼儀だ」 「ですよね」 「まぁ、そこまでバカじゃないだろ」 他の三人までもがこういった。こうなれば、多勢に無勢だ。アスランに勝ち目などあるはずがない。 「いざというときにはお願いしなさい」 だからといって、追いつめすぎてもまずいだろう。そう判断をして、ギルバートは苦笑と共にこういった。 「失礼にならないのですか?」 不安そうにキラが聞き返してくる。 「もちろんだよ」 キラの体調が最優先事項だ。それにキラ達はまだ成人前の子供なのだ。だから、先に退席するようなことになっても、誰も失礼だとは思わない。そう続ける。 「でも、わたくしの歌が終わるまではいてくださいませね」 そうしたら、一緒に帰ろう。ラクスが直ぐにフォローをしてくれる。 「うん」 ラクスが一緒なら安心だね、とキラはほっとしたような表情と共に口にした。 「もっと早く帰りたくなったら、僕がおくるから」 本当に懲りない、というのか。アスランが口を挟んでくる。 「だって、アスラン、今日お泊まりの約束してないでしょう?」 ラクスは今晩、泊まっていくのだ。キラはそう言い返す。 「ギルさんが『いいよ』って言ってくれたから」 だから、一緒に帰るのだ。そうも彼女は付け加える。 「……いつの間に……」 悔しげな口調でアスランが呟く。 「詰めが甘いですわね、アスラン」 くすくすと笑いながらラクスは言い返す。 「それに、女性同士ですもの。その位当然のことですわ」 ね、とその表情のまま彼女はキラに問いかける。それにキラもこくりと頷いて見せた。 「なら、俺も……」 「バカか、貴様は!」 泊まると言おうとしたアスランの頭をイザークが遠慮なく殴りつける。それに、周囲から小さな笑いがわき上がった。 |