「ご苦労様だったね」
 くったりと椅子に座り込んでいるキラの髪を撫でながらギルバートはそう囁く。こちらに来てから――と言うよりは、ラクスに言われたから、だろうか――そろえる程度にしかはさみを入れていない栗色の髪は、肩胛骨まで覆っている。
 その艶やかさは日々の手入れのおかげだろうか。
 さらりとした感触を楽しみながらギルバートは心の中でそう呟いた。
「でも、本当によかったんですか?」
 あんなにたくさん、とキラは問いかけてくる。
 そう。
 結局、一着に絞りきれなかったのだ。だから、ギルバートは残った服を全て購入してしまった。
 そのことをキラは気にかけていたのだろう。
「気にしなくていいよ。おそらく、これからこのような機会が増えるだろうからね」
 思い切り不本意だが、とギルバートは付け加えた。
「……増えるって……」
 どうして、とキラが首をかしげる。
「ラウ兄さんが偉くなるから、ですか?」
 脇からレイが口を挟んできた。
「ラウだけではなく、私もね」
 苦笑と共にこう言い返す。
「それに……ラクス嬢もこれを契機に表舞台にたたれる機会が増えるだろう。そうなれば、友人であるキラに招待状が来る機会も多くなるだろうしね」
 ラクスがそれを望むかどうかはわからない。だが、主催者や招待者の側が気を利かせる可能性は高いだろう。
 そして、彼女は自分とラウが後見をしている存在だ。そちらの理由から招待状を送ってくるものも出てくるに決まっている。
「ニコル君も同様だ」
 そうなれば、残りの三人がどのような行動に出るか。想像しなくてもわかるのではないか。
「だからね。きっと、これも全部、人前にでるために袖を通すことになるだろうね」
 それでなくても、ラウに写真を送れば、きっと喜ぶだろう。そう付け加える。
「あぁ。それは十分にあり得ます」
 ラウのパソコンの中にはキラメモリアルというフォルダがあるから、とレイはさりげなく付け加える。
「何、それ」
 信じられない、とキラが目を丸くしながら口にした。
「いずれ、父さん達におくるから、だそうです」
 流石に、こう言われては納得しないわけにはいかないのか。しかし、釈然としないのだろう。
「だからって……」
 というよりも、誰がラウにそんなデーターを送っているんだ……とぶつぶつと呟いている。
 そんなもの、犯人は一人しかいないだろう……とギルバートは思う。
 同時に、後でこっそりとラウのパソコンからそのデーターを貰っておこう、と考える。
「可愛いのだから、構わないのではないかな?」
 それ以前に、キラが何か余計なことをしないように手を打っておくべきだろう。そう判断をしてこう告げた。
「それに、傍にいられないのであれば、どのような写真でも喜ばれるのではないかな?」
 だから、我慢して起きなさい。そうも付け加える。
「他の馬鹿の手に渡らないようにすればいいだけのことだしね」
 そんなものがあると知れば、欲しがるのは自分だけではないだろう。
 特に厄介なのはあの三人だろうか。
「そうですね」
 こう言いながらレイはギルバートへと視線を向けてきた。その意味がわからないわけではない。
「安心しなさい。とりあえず、オーブ側には渡らないようにしておくよ」
 もっとも、式典の最中の写真は妥協するしかないだろうが。そう付け加える。
「……禁止できませんか?」
「流石に、ね」
 マスコミが入る以上、我慢するしかない。だが、出来るだけ写らないようにすることは可能だ。
「そのあたりのことは、君に任せるしかないかな?」
 自分も出来るだけ傍にいてフォローはするが、立場上、キラ達のことだけを考えてはいられない。だから、とレイへ視線を向ける。
「もちろん、ラクス嬢にもお願いしておくがね」
 彼女も、確実に側を離れなければいけない時間があるのだ。
「わかっています」
 キラを守るのが自分の義務だから。そう言ってレイは頷いて見せる。
「……僕の方が年上なのに」
 ぼそっとキラが呟く。それに自然と笑みが浮かんできた。







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最遊釈厄伝