こう言うとき、男の子の服は簡単だ。いや、礼服のバリエーションが少ないと言うべきか。もちろん素材やら何やらは決めなければいけないが、基本的なデザインは共通なのだ。
 だから、というわけではないが、レイの服はあっさりと決まった。
 しかし、キラの方はそういうわけにはいかない。
 いや、むしろ彼女の服の方がメインだと言っていいのではないか。実際、多種多彩なデザインの服が部屋一つ分運び込まれていた。
 その事実に、流石のギルバートも一瞬目を丸くしたほどである。
「お嬢様に着て頂きたい服を選んで参りましたら、こんなになってしまいました」
 顔見知りの店員がこう言い返してきた。その口調には少しも申し訳ないという気持ちは含まれていない、逆に自慢げだ。
 それはしかたがないのか。
 キラは何を着せても似合うから。
「でも、こんなにたくさん……」
 しかし、キラ本人は困惑しているらしい。
「何も全部買うわけではないからね」
 一番似合う服を選ぼう、とギルバートは微笑む。
「どうせなら、可愛い姿をあちらの方々にも見て貰いたいしね」
 こちらでキラが虐げられているなどと言わせてなるものか。こんなにも彼女の存在を必要としている人間がいるというのに。心の中だけでそう付け加える。
「それに、そう言う席ではきちんとした身なりをするのが礼儀だろう?」
 何よりも、自分が可愛いキラの姿を見たい。ラウにも写真を送らないと怒られるしね……と言葉を重ねた。
「……ギルバートさんも、ラウ兄さんも、その方が嬉しいのですか?」
 自分が着飾った方が、とキラは首をかしげながら聞き返してくる。
「君が好きな服を着てくれていいのだよ」
 普段は、とギルバートは言い返す。
「ただ、時々、私たちの目を楽しませてくれると嬉しい、というだけだよ」
 ラクスも、TPOによって服装を変えているだろう? とそうも付け加える。
「言われてみれば、そうですね」
 確かに、とキラは頷いて見せた。
「そうですよ。男性はともかく、女性はやはりその場に会わせて様々な服を持っているべきです」
 特にキラのような立場であれば、と即座に店員が口を挟んでくる。
「……別に、僕は……」
 たまたまギルバートに引き取って貰っているだけの一般人だから、と真顔でキラは言い返した。
「そんなことは気にしなくていいんだよ。私が楽しいのだから」
 だから、色々と着て見せてくれると嬉しい。そう口にしながら、さりげなく視線を店員へと向ける。そして、これ以上余計なことを口にしないよう釘を刺した。
 彼の視線に、店員は恐縮したように肩をすくめる。
「お嬢様」
 だが、さすがはプロ、というところか。直ぐ後に笑みを浮かべるとキラへと視線を向けた。
「まずは、お好きなものをお召しくださいませ」
 いくつでも構わない。そう言われて、彼女は困ったような表情を作る。
「……キラの、好きなの?……」
「はい。お召しになるのはお嬢様でいらっしゃいますから」
 だから、まずはキラが試着したい服を選んで欲しい。その後で、ギルバート達の選んだものを試着して一番似合うものを探せばいい。
 その言葉に、キラは首をかしげた。
 だが、直ぐにそれが正論だと気がついたのだろう。小さく頷いてみせる。
「では、こちらに」
 店員は即座に彼女の小さな体を部屋の隅のパーティションで区切られた場所へと導いていく。
「本当に楽しみだね」
 小さな声でギルバートはこう呟いた。
「そうですね」
 レイがこう言って頷いてみせる。
「姉さんも、普段からもっと着飾ってくれてもいいのに」
 でも、動きやすい服の方が好きだから無理だろうか。そう言って彼は首をひねった。
「まぁ、普段はそれでかまわないと思うよ」
 キラらしくて、とギルバートは笑みを深めた。

 その日、キラがそうそうにダウンした理由は、あえて書かなくても構わないだろう。







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