自宅に戻れば、二人とも既に帰っていた。
「それは都合がいいね」
 執事からその報告を聞いて、ギルバートは微笑む。
「すまないが、二人の礼服を用意したいのでね。いつもの所に頼んでくれるかい?」
 本当は仕立てさせたいが、その時間はないだろう。だから、現在、店頭にあるものであの二人に似合いそうな服を持ってきてくれるよう、伝えて欲しい。
「かしこまりました」
 即座に執事は言葉を返してくる。
「直ぐに手配をさせて頂きます」
 彼のその言葉に頷くと、デュランダルは歩き出した。
「二人は?」
 上着に手をかけながら誰とはなく。
「お部屋の方においでです」
 それを受け取りに着たらしいメイドが言葉を返してくる。
「お呼びしましょうか?」
 さらに付け加えられた問いかけに、彼は頷き返す。
「頼むよ。あぁ。それとお茶の準備も頼む」
「かしこまりました」
 言葉とともに、彼女はギルバートの手から脱いだばかりの上着を受け取る。そして、静かに頭を下げた。
 それはいつものことだと言っていい。
 だが、今日のギルバートにはそれが得難いものに思えてならない。それはきっと、評議会ビル内でのあれこれがあったせいだろう。
「本当に……」
 平穏な日常が一番だ、とギルバートは呟く。
 もっとも、それを壊されないように努力しなければいけないのだろうが。
 そんなことを考えながら、ギルバートはリビングへと向かう。そこに着くまでの間にもゴミ一つ落ちていない。それも彼の心を満足で包んでくれた。
「あの子達の服を選ぶことも気分転換になってくれればいいのだけどね」
 もっとも、本人にはいい迷惑かもしれないが。
 だが、彼女も女の子だ。その手のことが嫌いだとは思えない。
「……ラクス嬢にも声をかけておくべきだったかな?」
 彼女であれば、きっと、キラに的確なアドバイスをしてくれただろう。
「考えてみれば、女性に服などおくったことはないしね」
 付き合った女性がいないわけではない。
 しかし、プラントにいる女性達はそれぞれが自分自身に多大なる自信を持っている。だから、下手に服をプレゼントすると厄介なことになるのだ。
 もちろん、買い物に付き合わされたときは別だが。
 そう言うときは、自分の好みでは内服でもほめた上に、支払いもしなければいけない。
「まぁ、しかたがないのだろうがね」
 男である以上、と誰もが苦笑と共に告げる。それがこのプラントでは普通なのだ。
 でも、キラの場合は違うだろう。
「とりあえず、あまり華美なのはいけないね」
 キラの場合は、シンプルでも上質なもの方がいい。
 かといって、ラクスが身に纏っているようなドレスは今ひとつしっくり来ない。もちろん、似合わないわけではない。ただ、キラのイメージではないというだけだ。
「まぁ、そのあたりは店員の見立てに任せるか」
 どうしても気に入ったものがなければ、仕立てさせるしかないだろう。支払いを弾むとなれば、作ってくれるものもいるだろうし。
 しかし、そんなことになればキラが恐縮してしまうだろうか。
 だが、オーブに連れ戻されないようにということで納得してもらわなければいけないだろう。
「色々と難しい問題だね」
 だが、楽しい。
 それは全て《キラ》に関わることだから、だろう。
 これも、ある意味、初めての経験なのではないか。
「本当。私としたことがここまで本気になるとはね」
 それもまた楽しいが。そう付け加えながら、彼はリビングへと足を踏み入れた。








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最遊釈厄伝