念のために執事にも二人の様子に何か異常を感じたら直ぐに連絡をするように、と言い置いてギルバートは評議会ビルへと向かった。 「……後は……何をしておけばいいだろうか」 自分に出来ることはしてきたつもりだが、まだ何か忘れているような気がしてならない。 「まだまだ未熟、ということか」 そう言うことで悩むと言うことは。それとも、それが普通なのだろうか。 「……あぁ、そうだ」 そんなことを考えていたときだ。 「学校の方へ連絡を入れていなかったな」 登下校は専用車を使わせる。それ以外の迎えには二人を引き渡さないように、と言っておくべきだった。 「今の時間であれば、誰かいるだろうね」 評議会や軍の関係者の子女が通っているから、その点の対処は早い。それがあったからこそ、あの学校を選んだのだが。 「問題は、何と理由をつけるか、かな?」 下手なことを言えば、国際問題になりかねない。だから、それを理由にしない方がいいだろう。 まぁ、と口元に微苦笑を刻む。 「あの子が周囲の大人達に目をつけられていることは知られているだろうからね。それを理由にさせて貰おうか」 長期休暇中にあの子の歓心を買おうとしているものが多い。中には強引に物事を進めようとしているものもいるらしい。 それはあながち誇張ではない。だから、周囲の者も納得するのではないか。 「誰も傷つかないだろうしね」 結論を出してしまえば、後は行動するだけだ。 ギルバートは座席の脇に取り付けられている携帯端末へと手を伸ばす。そして、手慣れた仕草で学校へと回線をつなぐ。 コール三回で誰かがでた。 「早朝から申し訳ない。キラ・ヤマトとレイ・ザ・バレルの保護者のデュランダルです」 頼みたいことがある。そう続けた。 『承ります』 相手は即座に言葉を返してくる。その反応に、ギルバートは満足そうに頷いて見せた。 学校への説明が終わるのとタイミングを合わせたかのようにエレカは評議会ビルの専用駐車場へと滑り込んだ。 あるいは、運転手が気を利かせてくれたのかもしれない。 「今日もありがとう」 そんなことを考えながら、こう告げる。 「当然のことをしたまでです」 彼は、にこりともせずにこう言い返してきた。 「キラ様とレイ様のこともご心配なく」 いきはともかく、帰りは自分が責任を持って迎えに行く。そう彼は続けた。 「お願いするよ」 頷き返すと、ギルバートはエレカを降りる。そのまま、執務室がある階までエレベーターで移動をしようとした。 その時だ。 「デュランダル君」 待ちかまえていたかのように声をかけられる。いったい、どこからここにいたのだろうか。 「おはようございます、アマルフィ議員、エルスマン議員」 こっそりとため息をつきながら、とりあえず、挨拶の言葉を口にする。 「おはよう」 即座に言葉を返してきたのは、専門の関係で個人的に話をしたことがあるタッドの方だった。 「朝早くからすまないね」 そう言いながら、彼は歩み寄ってくる。その後をユーリが付いてきた。 「何のご用でしょうか」 だいたい想像が付くような気がするのは錯覚だろうか。 同時に、きっとこの後、パトリック・ザラとエザリア・ジュールにも声をかけられるだろう。そんな確信がわき上がってくる。 キラが人気者なのは嬉しいのかもしれないが、しかし……と思わずにいられない。 こんなことでは、いつ横からさらわれてしまうか。 色々と頑張らなければいけないだろう、と心の中で呟いていた。 |