気が早いかもしれない。だが、万が一の可能性も捨てきれない。
 そう考えて、ギルバートは二人の登下校に自分が手配をしたエレカを使わせることにした。
「……そこまでは……」
 大げさではないか、とキラは首をかしげながら口にする。
「相手が相手だからね」
 プラントには既に、オーブの領事館があるだろう? とギルバートは付け加えた。
「一応、駐在員の身柄は調べてあるが……最近はブルーコスモスにも同胞コーディネイターがいるという話しも聞いている。
「万が一のことがあっては私もラウも自分を責めずにはいられないだろうからね」
 だから、といえばキラがそれ以上拒めないだろう。そう思ってのセリフだ。
「……だって……」
 それでもまだ納得できないのだろうか。キラは何かを言おうとしている。しかし、彼女の語彙ではしっくりと来る表現を見つけられないのだろう。尻切れトンボになってしまった。
「それに君達だけではなく、周囲の人たちにも迷惑をかけてしまう結果になりかねないよ?」
 そんな彼女にさらにたたみかけるようにこう告げる。
「みんなに?」
「そう。ブルーコスモスの連中が自分の目的を達するためならどのような行動を取るか。それは知っているだろう?」
 だから、その危険も避けなければいけない。
「……みんなのために、なら……しかたがないです」
 これがとどめになったのか。キラは渋々ながら頷いて見せた。
「レイも構わないね?」
 キラが納得したなら、彼は心配いらないだろう。そう思いながら確認の言葉を投げかける。
「姉さんの安全が最優先です」
 きっぱりと言いきる彼に、ギルバートは微笑む。
 本当に彼はラウにそっくりだ。
 それもきっと、彼の教育の成果だろう。
「なら、問題はいらないね」
 そのように手配をしよう、とギルバートは付け加える。
「もっとも、そう長い期間ではない、かな?」
 直ぐに休みだろう? と問いかければ、今度は二人揃って頷いて見せた。
「もっとも、そういう事情だから、二人ともあまり出歩かない方がいいだろうね」
 彼等にしてみればちょっと辛いことかもしれないが。そう付け加えれば、キラは小さく首を横に振ってみせる。
「大丈夫です」
 使節団が帰れば、自由に出歩けるようになるだろうから……そう言ってキラは微笑む。
「オーブにいた頃も、こんなことはたまにあったし」
 この言葉に、ギルバートは思わず眉根を寄せた。
「そうだね。君達が出かけるのは無理でも、お友達にここに来てもらうのは構わないよ」
 ラクスやルナマリアであれば、無条件で歓迎しよう。男性陣に関しては、妥協するしかないだろうね。そうも付け加える。
「ラクスとルナはいいけど、アスラン達はダメなんですか?」
 その言葉をどう受け止めたのか、キラはこう問いかけてきた。
 それにギルバートは曖昧な笑みを返す。その推測が当たっていると言えるはずがないのだ。
「……俺の友人も構いませんか?」
 その曖昧な空気を察したのだろうか。レイがこう問いかけてくる。
「シンも来るなら、マユちゃんも来るだろうし」
 マユはキラも気に入っているから、と彼は続けた。
「もちろんだよ。もっとも書斎と私室だけは入らないようにしてくれるかな?」
 他の場所は自由にしてくれていい。その言葉に、二人は頷いてみせる。
「それと……今回の準備でひょっとしたら帰れない日があるかもしれないけど、困ったことがあったら遠慮しないで連絡をしてきなさい」
 いいね? と念を押したのはそう言わなければ、彼等が遠慮をしてしまうだろうと思ったからだ。
「……はい」
「姉さんに何かあったら直ぐに」
 その二人の反応に、苦笑を浮かべるしかできないギルバートだった。







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最遊釈厄伝