あれこれ根回しをしなければいけない。そう判断をして、いつもよりも早めに帰宅をした。
「ギルさん、どうかしたんですか?」
 その事実に、キラは驚いたように目を丸くしている。
「……クビになったんですか?」
 レイはレイで、可愛くないセリフを言ってくれた。
「いや。ちょっと困ったことになってね」
 それで戻ってきたのだ、と苦笑と共に言い返す。
「別に罷免されたわけではないから安心しなさい」
 もっとも、評議会議員を罷免されても二人に不自由をかけるようなことはないが。そうも付け加えた。
「ともかく、座って話をさせてくれるかな?」
 少し長い話になりそうだから。そう付け加えれば、キラは小さく頷いてみせる。
「しかたがないですね」
 レイもまた、渋々といった様子でこういった。
「では、リビングに行こうか」
 本当に二人とも可愛い反応を見せてくれる。
 だからこそ、彼らを守らなければいけないのだが。
 しかし、これから話す事で二人を傷つけることになるかもしれない。それでも確認しておかなければいけないから、とギルバートは心の中で呟いた。
「そう言えば」
 不意にキラが口を開く。
「ラクスが『別荘に遊びに来ませんか』って言ってくれたんですけど……」
 遊びに言ってもいいですか? と彼女は首をかしげる。
「いつから、かな?」
 ラクスが何故、と思わなくはない。
 いや、このタイミングならばシーゲルから話を聞いた可能性もある。
「んっと……一週間後、だって」
 レイも一緒に行っていいっていってくれたのだが、とキラは教えてくれた。
「……侮れない方だ……」
 やはり、とギルバートは呟く。
「ギルさん?」
 どうかしたのか、とレイが問いかけてくる。その間にも、三人はリビングへとたどり着いていた。そこにいたメイドに三人分のお茶を頼む。
「まずは座りなさい」
 それからギルバートはこういった。その言葉に二人は素直に従う。あるいは、彼の言動から何かを察したのかもしれない。
「来週、オーブからの使節団が来ることになっている」
 二人の顔を見つめながら、ギルバートは出来るだけ冷静な声音で言葉を綴り出す。
 その瞬間、二人の顔が強ばった。
「あちらから、君達に会いたいという依頼があった」
「……まさか、また姉さんを!」
 ギルバートの言葉を遮るようにレイが叫ぶ。
「レイ!」
「だって、そうじゃないですか!」
 キラの制止も、今の彼の耳には入らないらしい。
「いいから! ギルさんがまだ話している途中でしょう?」
 だから、最後まで聞いてから考えないと……とキラはレイを制止している。
「……姉さんが、そう言うなら……」
 彼女の言葉は無視できないのか。レイは渋々ながら頷いている。
「とりあえず、個人的な面会は断ることにしたから安心しなさい」
 ただ、とため息をつく。
「公的な場での顔合わせまでは拒否できないだろうね」
 もっとも、その時にはラクス達も同席してもらえるように手配はしているが、と続けた。
「……ラクス様はともかく、他の男どもも、ですか?」
 今までとは違った意味で嫌そうにレイが告げる。
「それは諦めてもらうしかないね、今回だけは」
 彼等であれば、多少の無礼は許されるのではないか。そうギルバートは口にする。
「気に入らなかったら、彼等に押しつけて逃げ出せばいい」
 その位は役に立ってくれるはずだよ。そう言って笑った。
「そうですね」
 枯れ木も山の賑わいといいますし……と言うのはちょっと間違っているのではないか。だが、納得してくれたのであればそれはそれで構わない。ギルバートはそう結論づけた。







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最遊釈厄伝