ラウから緊急の連絡が入っている。しかも、軍の直通回線を使って、だという。 「珍しいこともあるものだね」 彼がこんな風に、自分の特権を使うことはなかったのに。だが、と直ぐに思い直す。逆に言えば、それだけ厄介な状況なのではないか。 「何か緊急事態でもあったのかな?」 そして、それは自分にも手を貸すことが出来る内容なのか。言外にそう問いかける。 『オーブからの使者が来るというのは本当なのか?』 それに対し、返されたのはこんなセリフだ。 「あぁ……一週間後においでになるが?」 彼等にキラ達を会わせて欲しいというのだろうか。だが、その程度のことで、この男がこんなに慌てて連絡をしてくるとは思えない。 『どんな手段を使ってくれても構わない。彼等と二人を接触させないで欲しい』 しかし、ラウの依頼は自分が考えていたものとは真逆のものだった。 「何故、と聞いて構わないかな?」 二人にしてみれば故郷の人間だろう。そして、キラの言動から判断をして、おそらく、首長家に近い立場にいたはずだとギルバートは考えている。 『強引に連れ戻される可能性が否定できないから、だ』 ギルバートの疑問に、ラウは即座にこう言い返してきた。 「だが、彼等の保護者は、現在、君だろう?」 ご両親から、正式に依頼されているはず。それをオーブからの使者とは言え、向こうにすることは出来ないはずだ。 『その理屈を受け入れてくれる相手ならば、だが』 言外に、相手がそれを認めていないのだとラウは告げてくる。 『アスハとサハクならば、あの二人に危害を加えようとはしないだろうが……他の三家は違う』 特にセイランはまずい、と彼は続けた。 『現当主を含めて、あいつらはブルーコスモスの傀儡と言っていい』 キラを《道具》として欲しがっている者達に、あっさりとその身柄を渡そうとしてくれたのだ。だからこそ、彼女たちをプラントへと避難させたのだ……と彼は続ける。 「信じたくはないな」 まだ幼い子供を、とギルバートは呟く。 だが、相手がブルーコスモスなら十分にやりかねない。 実際、幼い少年少女達がブルーコスモスによって洗脳されているという事例が報告されているのだ。 「だが、君が嘘を付くとも思えない」 少なくとも、あの二人に関わることに関しては……とギルバートは続ける。 『信用してくれて嬉しいよ』 ほっとしたようにラウは言葉を返してきた。 『ただ、そのようなことが可能なのか、わからないのだが』 それでも、どのような手段を使ってでもいい。出来る限り面会を拒否して欲しい。出来ないのであれば、必ず複数の視線があるところでしてくれないか。そう彼は続けた。 『いくら連中でも、人目があるところなら無理はするまい』 ともかく、キラの身柄を連中に渡さなければいいのだ。その言葉に、ギルバートは頷いてみせる。 「幸い、明日から幼年学校は休みだからね」 少なくとも、登下校中に狙われる可能性は少ないだろう。彼はそうも続けた。 「問題は、あの子達を家の中だけにとどめておくのは難しいと言うことかな」 さて、どうしたものか……と考え込む。 『私がそれまでに戻れればいいのだがね』 そうすれば、そのまま休暇をもぎ取って他のプラントに旅行に出かけるものを……とラウはため息をつく。 「あの子をオーブに帰したくないものは大勢いるからね。その方々に協力を求めるよ」 特に、ラクスあたりに……と呟くように口にする。 『口惜しいが、今は君に頼むしかないからね』 ラウはそう言い返してきた。 「気にしなくていいよ。その点に関しては間違いなく協力関係にあるのだからね」 それ以外のことについては反目する可能性があるが、と微苦笑を浮かべながら言葉を返す。 『それに関しては、今度休暇が取れたときに、じっくりと話をさせて貰おう』 ラウは即座にこう口にする。 「お手柔らかに」 それに、ギルバートはこう言い返した。 |