それでも、キラが今まで以上に甘えてくれるようになったのは誰も否定できない事実だろう。 「今日もアスランがラクスに撃退されていたの」 なのに、どうして毎日同じ事を繰り返すのだろうか。 キラはこう言いながらギルバートを見上げてくる。 「あきらめが悪いから、かな?」 それに、こう言葉を返す。 「キラの一番になりたい、のだろうね」 本当に、彼はワガママだ……とそうも付け加えた。 「アスランは、ワガママなの?」 ラクスは、彼が『おバカさん』だ、と繰り返しているが、とキラは首をかしげている。 「それに……アスランの一番はラクスじゃないと、ダメでしょ?」 ラクスとアスランは結婚しなければいけないのだ、とそう聞いたから……と彼女は続けた。 「まぁ、ね」 苦笑と共にギルバートは頷いてみせる。 あの二人が結婚しなければいけないのは、彼等が次世代を残せる可能性が高いからだ。それは、第一世代のキラとアスランのカップルでも同じ事が言えるだろう。 しかし、それを本人に悟られるわけにはいかない。そう判断をして、曖昧な口調で頷いてみせる。 「だが、本人が強く拒めば無理強いはされない」 あくまでも、本人の意志が優先される。 でなければ、結婚生活も破綻してしまうだろう。だからアスランがどうしても『いやだ』というのであれば、二人の婚約はないことになる。 それでも、とギルバートは心の中で続けた。 キラが『是』といわなければ、いくらアスランでも強引に事を進めることは出来ない。 「それでも、あの二人の父親は最高評議会の中で重要な立場についておいでだ。そして、それぞれの派閥の長でもある」 プラントの今後を考えれば、二人が結ばれるのが好ましい。 少なくとも、ラクスはそれがわかっているようだ。しかし、アスランは……と心の中で付け加えた。 「……大変だね、二人とも」 ギルバートの説明に、キラはこう呟く。 「しかし、それが彼等の権利に伴う義務だよ」 他にもあれこれあるのだろうが、とギルバートは口にした。何事にも権利には義務が付属しているものだしね、と彼は続ける。 「そうですね」 それに、キラは即座に頷いて見せた。 「なのに、どうして僕にあんなにちょっかいをかけてくるんでしょう」 アスランだけではなく他の者達も、とキラは本気で付け加える。 「それは、キラが可愛いからだろうね」 結婚するしないはともかく、可愛いこと付き合いたいと思うのは当然のことだ。でも、だからといって迂闊な相手と付き合ってはいけないよ? と微笑む。 「そんなことをすれば、ラウに相手が殺されるかもしれないからね」 彼ならば、その位どうということはないだろう。もちろん、自分もこっそりと協力するだろうが……と心の中だけで付け加えた。 「まぁ、その前にレイやラクス嬢に阻まれるだろうがね」 だから、相手を選ぶ時も、じっくりと考えてからにしなさい。 その言葉に、キラは小さく頷いてみせる。 「でも……結婚なんて、まだ、考えられません……」 自分はまだ十歳なのに、と彼女は付け加えた。 「そうだね」 だから、あまり難しく考えなくていい……とギルバートは微笑む。 「どうしても断れなくて困ったときは、遠慮なく私の名前を出しなさい」 いいね? と囁く。 「はい……でも……」 「でも、何かな?」 「ギルさんにご迷惑をかけることになりませんか?」 キラが不安そうに問いかけてくる。 「大丈夫だよ」 だから、安心しなさい。その言葉に安心したように、キラは微笑んだ。 |