「あなたにはあきれましたわ、アスラン」
 予想通りと言っていいのだろうか。ここにはキラの最大の味方も招かれていた。
「イザーク様の御邪魔をしただけではなく、キラが嫌がることをするなんて」
 彼女が目立ちたくないと考えていることはよく知っているだろう。柳眉を逆立てて彼女はそう詰め寄っている。
「ですが、ラクス……」
 そんな彼女の迫力に気おされながらも、アスランは反論を試みようとした。
「あなたはご自分の感情を優先されるのですね」
 しかし、それをラクスはしっかりと遮る。
「おかげで、他の方々までキラのことを意識してしまったではありませんか!」
 せっかく、自分たちだけのキラだったのに……と言う言葉に、ニコルが頷いているのがわかった。
「姉さんは、俺たちの姉さんです!」
 しかし、レイは違ったらしい。即座に反論の言葉を口にしている。その努力は認めたい。
 しかし、だ。
「わかっておりますわ。でも、わたくしにとっても大切な友達ですの」
 その事実は認めて欲しい、と言い返されて言葉を失っているようではまだまだではないか。
 それとも、ラクスの方が一枚も二枚も上手と言うことなのか。
 おそらく後者だろう、とギルバートは推測をする。同時に、やはり彼女が一番油断ならない相手なのか、と言う認識を新たにする。
「ともかく、です」
 そんな彼の耳にラクスの次の言葉が届いた。
「これで、キラを自分の子供の配偶者に、と望む方が増えたことは否定できません。その責任はどう取られるおつもりですの?」
 キラはオーブからの客人。
 だから、彼女は婚姻統制とは無縁の存在だ。
 何よりも、とラクスは言葉を重ねる。
「今まで、キラが普通に学校生活を送ってこられたのは、特別な存在だと思われていなかったからです」
 もちろん、キラの存在に気づいているものはいた。そして、親の命令で彼女に近づこうとしたバカは、自分たちが丁寧に排除させて貰っていたのに。
「それも、軍部が評議会に関係のないお家のお子様方だったからですわ」
 しかし、これからはそう行かないだろう。ラクスはそうも付け加える。
「大丈夫ですよ、ラクス」
 それにアスランは満面の笑みで言葉を返す。
「俺がキラと婚約をすればいいだけです」
 しかし、その内容は決して最良の策とは言えない。
「……やはり、バカでしたのね」
 アスランは、とラクスが言い返す。
「そもそも、貴様はラクス嬢と婚約が決まっているだろうが!」
 アスランにそうさせるくらいなら、自分が立候補する! というのがイザークの本音ではないか。
「なら、俺も立候補するぞ」
 負けじとディアッカが口を開いた。
「何を言っているんですか! 二人よりも僕の方が先にキラさんとお会いしているんですよ?」
 ここは自分が婚約者として名乗りを上げるのが妥当ではないか。ニコルまでもが口を挟んでくる。
「……ギルさん……」
 流石に、この光景には恐怖に近い感情を覚えたのか。キラがこう言いながらすり寄ってくる。
「大丈夫だよ、キラ。みんな冗談を言っているだけだ」
 そう言っているわけではないからね。そう言いながら、彼女の体をひざの上に抱き抱えた。
 もっとも、とギルバートはため息をつく。
「プラントは男性の方が多いからね。可愛いお嫁さんを早めに確保しておきたいと思っている者は多いのだよ」
 キラは可愛いからね、という言葉が救いになるかどうか。
「もっとも、私とラウの二人が同時に認められる人間でなければ、許可は出せないがね」
 そんな人間がいるかどうかはわからないけどね、と付け加える。
「でも、キラが本当に好きになった人なら認めてあげるよ?」
 この言葉にキラは小さく頷いて見せた。
「でも……僕は兄さんやレイ、それにギルさんがいてくれれば、それでいいです」
 他の男の人は恐いからいやだ。その呟きに、数名、凍り付いているものがいる。だが、それをギルバートは綺麗に無視をした。







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