しかし、敵は予想外の所から現れた。 「キラ!」 人混みを抜けて、アスランが駆け寄ってきたのだ。 「キラも来ていたんだ」 満面の笑みと共に彼はキラの手を取ろうとする。そんな彼の姿を周囲の者達が興味津々といった様子で見ているのだ。 四方八方から飛んでくる視線に、キラは恐怖すら覚えているのだろう。アスランの手を逃れて、ギルバートの腰にすがりついてきた。 「アスラン君。申し訳ないが、ここでは遠慮してもらえるかな?」 キラが嫌がっている、と言外に滲ませながらギルバートは二人の間に体を割り込ませる。 「せっかく目立たないようにしてたのに、台無しだろう」 少しはキラの性格を考えろ! とレイはギルバートよりもストレートに告げた。 「姉さんは目立つことが嫌いだって、知っているだろう!」 それとも、それも知らずにキラと付き合っていたのか……と彼はアスランに詰め寄る。 「……レイ……」 いいから、とキラが慌てて声をかけた。 「でも、姉さん」 彼に会いに来たわけではないのだから、とレイは打って変わって優しい声音でキラに言い返している。 「そうだな」 レイへの援護は予想外の所から飛んできた。 「この方々を招待したのは母上だ。その母上が彼等に挨拶をしたい。しかし、今は抜けられないからご足労を願っているところなのに、何故邪魔をする」 それとも、それが貴様が学んできた礼儀なのか。そう彼は続けた。 「知り合いの顔を見たら、挨拶をするのは当然じゃないのか?」 しかし、アスランはこう言い返している。 「だからといって、行く手を遮るのは許されるというのか?」 挨拶なら、エザリアにした後でも出来るだろう。そう言うイザークの意見に、ギルバートとしては同意せざるを得ない。 「顔を見たら挨拶をするのは当然のことではないのか?」 しかし、アスランは負けじとこう言い返してくる。どうしても、彼は自分に非があったと認めたくないようだ。 それはきっと、キラがここにいるからだろう。 こう考えながら、さりげなく視線を彼女へと向けた。 次の瞬間、思い切り顔をしかめてしまう。 「大丈夫かな、キラ」 小さな顔からは完全に血の気が失せていた。 「……ギルさん……」 それでも、何とか口元に笑みを浮かべようとしている。 だが、このままにしておくわけにはいかない。しかしどうするべきか。そう思ったときだ。 「ほらほら、そこまでにしておけって」 新たな声が周囲に響く。 「ディアッカ」 「……邪魔をするな!」 二人の口から彼の登場を歓迎しないという意味の言葉が飛び出す。 「他の時なら邪魔しねぇよ」 でも、とディアッカは続けた。 「そっちのお嬢さんの顔色がよくないからさ。さっさとエザリア様の所につれてって、それで落ち着ける場所に移動して貰った方がいいんじゃないの?」 でないとかわいそうだろう? とさらに言葉を重ねられて、二人はようやくキラの状態に気付いたらしい。 「キラ……」 「大丈夫か?」 今度は見事なまでに彼女をかまい始める。しかし、それがキラにとって負担になっているとは想像もしていないのだろう。 しかたがない。ついでに、周囲に対する牽制もしておこうか。そう考えて、ギルバートはキラの体を抱え上げた。 「ギルさん?」 「この方が楽だろう?」 キラに向かって微笑みかける。 「さて、改めて案内をお願いしても構わないかな?」 そして、イザークに問いかけた。 「はい」 即座に彼は頷く。そしてそのまま歩き出した。 しかし、彼等の後をアスランとディアッカが当然のように付いてくる。本気でそれをどうにかしないといけないだろうな……と心の中で呟いていた。 |