一通の封筒を手に、ギルバートは小さなため息をつく。
「そう言う手段に出ましたか」
 エザリア・ジュール……と口の中だけで付け加えた。
「かといって、正式な招待状である以上、無視することも出来ませんしね」
 今の自分では……と呟くように口にする。
「それでも、私だけではなくレイも一緒ですし……おそらくこの様子ではラクス嬢も招待されているはず」
 キラの側にいてもらえれば彼女が安心できるだろう。
「しかし、それだけでは不十分だね」
 それだけでは、キラを守ることは難しい。
「こうなると、今の立場ではまだまだ不十分だと言うことか」
 困ったものだ、とため息をつく。
「ラウが帰ってきてくれれば、まだましだっただろうに」
 もっとも、その時はその時で別の問題が持ち上がるような気はする。しかし、キラにまとわりつこうとする害虫を駆除することは出来るのではないか。
 どちらを優先すべきかと言えば後者に決まっている。
「だが、無理そうだからね。私だけで何とかするしかないだろう」
 とりあえず、キラに話す前にレイを捕まえて相談しておいた方がいいだろう。
 そう判断をすると、ギルバートは立ち上がった。
 今の時間であれば、レイはピアノの所だろうか。そう思いながら廊下を歩いていく。
 そんな彼の耳に華麗なアルペジオが届いた。どうやら、予想通り、レイはそこにいるらしい。
 キラが一緒にいなければいいのだが。
 そう考えながら、そっとドアを開ける。
「……ギル?」
 その音に気が付いたのだろう。レイは手を止めると視線を向けてきた。幸いなことに、その隣にキラの姿は見えない。
「どうかしたのですか?」
 その事実にほっと胸をなで下ろせば、彼がこう問いかけてくる。
「ちょっと、厄介な事態が発生してね。君にも協力してもらわないといけないのだよ」
 キラには内緒で……と続ければ、レイの目が細められた。そうすれば、本当にラウに似ている。
「何なのですか?」
 その表情のまま、彼は言葉を唇に乗せた。
「厄介ごとというのは」
「……断れない招待状が届いたのだがね」
 差出人が問題なのだ。そう続ける。
「詳しくお聞きすべきなのでしょうが……ここでよろしいのですか?」
 場所は、と彼はさらに言葉を重ねてきた。そう言うところもラウに似ていると思う。普段一緒にいないのに、こういう点だけはしっかりと教育しているというのだろうか。
 だとするなら、侮れないな……と心の中で呟く。
「そうだね。すまないが、私の書斎まで来てくれるかな?」
 ここでは、キラが来るかもしれない。だが、彼女にはまだ知らせたくないのだ。そう続ける。
「そう言う内容なのですね」
 わかりました、とレイはあっさりと頷いて見せた。
「まぁ、君達の身柄に危険は及ばないとは思うがね」
 キラが可愛いからいけない……とそうも付け加える。
「なるほど。そう言うことですか」
 だいたい状況がわかりました。そう言って、レイは頷いてみせる。
「そう言うことだよ」
 プラントの第二世代は、男性の方が人口が多いからね。この言葉にレイはため息をつく。
「婚姻統制をするくらいなら、いっそのこと、男女一人ずつ子供を持つようにと決めてしまえばいいんだ」
 まるではき出すように彼はこういう。
「それも一つの手段だろうけどね」
 それはそれで難しい問題だ、とギルバートは口にする。
「ともかく、移動していいかな?」
 こう問いかければ、レイは静かに頷いて見せた。







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