ラウからの通信が入ったのは、そんな夜だった。ただ、時間が遅かったせいで、キラもレイも既に夢の中だったが。
『そう言う時期になってきたのか』
 困ったものだね、と彼はため息をつく。
「しかたがない。どうやら、ラクス嬢とアスラン・ザラは対の遺伝子を持っているらしくてね。既に婚約の話が出ている」
 もっとも、とギルバートは苦笑を浮かべながら言葉を重ねる。
「アスラン・ザラの方は、それを受け入れるつもりはないようだがね」
 彼女よりもキラの方がいい。そう言って、ごねているという話しも聞いた。
『あの子は第一世代だからね……』
 小さなため息とともにラウが言葉を口にする。
『婚姻統制とは関係のない立場でいてくれて幸いだよ』
 でなければ、本当に厄介な状態に追い込まれていただろう。そうも彼は続けた。
「だろうね」
 アスランとニコルのキラに対する言動を見ていれば、それはよくわかる。実際、ラクスに対するそれよりもまめなのではないか。
「キラの歓心を買おうと頑張っているようだしね」
 勉強の手伝いに関しては、それなりに役立っているようだ。もっともアスラン達の下心にキラ本心が気付いているかどうかは別問題だろうが。
『あの子は、その手のことには鈍いからね』
 だからといって、自分ではそれを教えることが難しい。どう切り出せばいいのか、わからないのだ。そう言うラウにギルバートも頷き返す。
「そのあたりは、適当にラクス嬢かルナマリア嬢に頼むしかないのだろうが……」
 そんなことで頭を悩ませる日が来るとは思わなかった。
 しかし、それを知ったキラが、今まで通りに甘えてくれるかどうか。それはまた別問題だろう。その後のことを考えると頭が痛い。
『どちらにしても、選択権はあの子にあるからな』
 いきなりラウがこう言ってくる。
『残念なことだよ』
 さらに彼は、ため息混じりにこう言って見せた。
「おや。何が残念なのかな?」
 彼が何を言い出すのか想像が付いている。しかし、わざとからかうような声音でこう聞き返した。
『そうしたら、絶対にお前などは選ばせないものを』
 自分かレイ、それでなければ年齢の近いものを選ばせるに決まっているだろう。そう彼は続ける。
「おや。それほど年の差はない、と思うが?」
 しれっとした口調でギルバートは言い返す。
『一回り以上年が離れている人間が、何を言っているのやら』
 先日、十歳になったばかりの少女と地球連邦の法律でも成人とみなされて久しい相手とでは十二分以上に年が離れていると言える。
「それなら、君だって似たようなものではないかな?」
 十近く離れていることは否定できない事実だろう。逆にこう、指摘をした。
『だが、私とキラの年齢差は九歳だよ?』
 十歳以上か未満か、その差は大きいと思うが? と彼は言葉を返してくる。
『キラがオーブの法律で結婚を認められる年齢になったとき、私はまだ二十代だからね』
 君は三十路突入だったのではないかな? とにやりと笑いながらラウは付け加えた。
「だが、少なくとも金銭的な面でキラに不自由をかけることはないね」
 それに、とギルバートは笑う。
『そんなのは些細なことだ。必要があれば、あの子は自分の才能だけで巨額の財産を手に入れることが出来る』
 それがなくても、既に、巨額の遺産を与えられている。
 だからこそ、オーブにいられなくなったのだが……とラウはため息をついた。
「ラウ?」
 それは一体、と問いかけようと口を開きかけた。
『すまないが、それはトップ・シークレットだ。どこから漏れるかわからない』
 その結果、キラの身柄が危険にさらされる可能性がある。だから、と続けられた言葉に、ギルバートは眉を寄せた。
「君が出世を焦っているのは、そのせいかな?」
『否定はしないよ』
 キラとレイの二人を守るのは自分の義務だ。そう言ってラウは笑う。
「なるほど……まぁ、詳しいことは君が帰ってきてから相談をしよう」
 もっとも、キラの気持ちについては別だがね……とギルバートは言い返す。
『だから、それは認められないと言っている』
「キラの気持ち次第だろう?」
 彼女が自分を選んでくれれば問題はない。
『邪魔をさせて貰おう』
「何。障害があった方が恋は燃えるのだよ」
 結局、ラウが時間切れになるまで、この不毛な会話は続いたのだった。







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