他の者達に気付かれないように、キラが目立たない席を選んだつもりだった。それなのに、めざとくその姿を見つけたものがいる。 「いいかしら?」 こう声をかけてきたのは、エザリア・ジュールだ。 「何でしょうか、エザリア様」 現在は休憩中なのだが、と付け加えながらギルバートは立ち上がる。それにつられてキラも腰を浮かせた。 「いいから、座っていなさい」 そんな彼女に向かって微笑みと共に言葉をかける。 「ギルさん」 「お仕事の話であれば、キラは聞かない方がいいからね。それに、その位で目くじらを立てられるような方ではない」 安心しなさい、とそうも付け加えた。 「あらあら。私はそんな人間に見えているのかしら?」 酷いわね、とエザリアが言い返してくる。 「別にそういうつもりで言ったのではありませんよ?」 微笑みと共にギルバートは言葉を口にした。 「ただ、この子が多少無礼な行動を取ったとしても、気になさらないだろう、と伝えたかっただけです」 まだ、幼年学校に通っているような子供の言動を笑って許せないはずがない、と言いたかったのだ。そう続ける。 「まぁ……家の子も同じくらいの年齢ですからね」 それに、飲食中に押しかけたのは自分の方だ。子供はしっかりと食べて成長をしなければいけないから、とエザリアはキラに微笑んで見せた。 「それに、別に仕事の話ではないもの」 この言葉にギルバートは微かに眉根を寄せる。確か、彼女の子供は男の子だったはず。まさか、とは思うが可能性は否定できない。 「あれ以来、あなたが隠してしまった養い子が来ているらしいと騒ぎになっていたから、覗きに来ただけよ」 その『まさか』が的中してしまったらしい。 「この子には、出来るだけ普通の生活を送らせたいので……」 とりあえず、牽制の意味をこめてこう告げる。 「でも、パトリックの息子とは付き合いがあるのでしょう?」 なら、と彼女は言葉を重ねようとした。 「アスラン・ザラとラクス嬢はキラのクラスメートですので」 そうだろう? と確認を求めれば、キラは小さく頷いてみせる。 「同じクラスで……ラクスは隣の席です」 それが何か、と視線で問いかけてきた。 「……そうなの?」 「えぇ。ニコル・アマルフィはその二人の繋がりで、顔見知りになったそうです」 だから、あくまでも学校優先の交友関係だ。決して、評議会の繋がりではない、と強調しておく。 「幼年学校繋がりでは……確かに、しかたがないわね」 家の子も、こちらの学校に通わせるべきだったわね……とエザリアはため息をつく。 それはどういう意味なのか。それがわからないのか、キラは不安そうに視線を向けてくる。 「気にしなくていいよ、キラ。君もレイも、婚姻統制とは無縁だからね」 だからこそ、あちらこちらで動き始めているのだろうが。それはそれで厄介かもしれない。 「世界が落ち着いたら、オーブに帰るのだしね」 この言葉にキラはほっとしたような表情で頷いてみせる。 もっとも、とギルバートは心の中で呟く。現在の状況では二人がオーブに戻れるようになるまで、後何年かかるのかわからない。 だから、それまでにキラの心を絡め取ってしまうしかないのだろう。 もちろん、自分がそんなことを考えているとキラに気付かれてはいけない。そんなことになればおびえられてしまう。 「……ともかく……」 この状況では自分に不利だ、と判断したのだろうか。 「よかったら、今度、家に遊びに来てくれないかしら」 自分の昔の服が残っている。それを着てくれそうな人間を捜していたのだ。 「男の子は、小さな頃はいいけれど……大きくなると付き合ってくれないのよね」 それはそうだろう、とギルバートは心の中で呟いた。 「……ギルさん……」 キラはキラで、困ったような表情を向けてくる。 「エザリア様……流石に、それは早急だと思いますが?」 顔を合わせたばかりの人間に言うべき言葉ではないだろう。そう続ける。 「そうかしら?」 「そうです」 本当にこの方は……と思いつつも、ギルバートはこう言い返していた。 |