何か、レイの視線が痛い。そう思うのはどうしてなのだろうか。
「レイ」
 そう思っていたのはギルバートだけではなかったらしい。
「どうして、ギルさんをにらんでるの?」
 そして、ギルバートほど彼に遠慮をしなくていい立場だ。だから、ストレートに問いかけている。
「にらんで、ません」
 しかし、レイはこう言い返してきた。
「めつきがわるいのは、むかしからです」
 さらにこんな言葉まで付け加えてくれる。いったい、どうしてこんなにかわいげがなくなってしまったのだろうか。
「レイ」
 キラが小さなため息とともに彼の名を呼ぶ。
「僕が言いたいのは、そう言うことじゃないって、わかっているよね?」
 そして、いつものキラとは打って変わって厳しい口調で言葉を綴っている。
「ねえさん……」
「みんな、僕や母さん達のように表情だけでレイがどう思っているのか、わからないんだよ?」
 だから、きちんと話をしないとダメってラウ兄さんにも言われているでしょう? と彼女は付け加えた。
「……わかってます……」
 でも、とレイは付け加える。
「ぼくにも、なにがきにいらないのか、わからないんです」
 だから、どうしていいのか自分でもわからないのだ。レイはそう付け加えた。おそらく、彼はまだ幼いから、自分が抱いている感情の意味がわからないのだろう。
「……でも、レイ……」
「気にしなくていいよ」
 ギルバートは微苦笑を浮かべながら口を開いた。
「ギルさん?」
「ひょっとしたら、レイは君を私に取られるのではないか、と不安になっているだけなのかもしれないしね」
 小さな子供にはよくあることだと聞いているよ。そう言って笑みを深める。
「これが、ラウならレイもここまで気にしなかっただろうしね」
 違うかな? と彼に問いかければ、考え込むように小首をかしげて見せた。だが、直ぐに頷いてみせる。
「レイにとってキラは一番身近にいてくれる《家族》だからね。他の人に視線が向けられるのは面白くないのだろうね」
 だが、とギルバートは言葉を重ねる。
「レイにも友達が増えれば、話は変わってくると思うよ」
 こう付け加えれば、レイが首をかしげた。
「ともだち、ですか?」
「そう、友達だよ。困ったときに助けてくれる友達は必要だと思うが?」
 自分とラウのように、と付け加えればレイも納得したのか。今度は小さく頷いてみせる。
「友達で思い出したが」
 それにとりあえず胸をなで下ろしながら、ギルバートは視線をキラに移動した。
「君が夕べ言っていた友達というのは、ラクス・クライン嬢とアスラン・ザラ、ニコル・アマルフィの三人でいいのかな?」
 この問いかけに、キラは小さく頷いてみせる。
「後、ルナが増えるかもしれないです」
 ルナマリア・ホーク、と彼女は付け加えた。
 最後の一人の名字は聞いたことはない。と言うことは評議会関係者ではないと言うことか。
 だが、ラクス・クラインが認めたのであれば、危険思想の持ち主ではないのだろう。むしろ、こちらの味方につけておけばキラにとってプラスになるのではないか。
「なら、大丈夫だね。呼んでくれて構わないよ」
 ただし、とギルバートは付け加える。
「できれば、私がいるときだと嬉しいね」
 ラウに聞かれたときに困らないように、とさりげなく言葉を続けた。
「わかりました」
 みんなと話をしてきます、とキラは頷く。
「でも、ギルさんのお休みって、いつですか?」
 キラのこの問いかけに、ギルバートは脳内に自分のスケジュールを思い浮かべる。
「今度の金曜日は休みがもらえるはず、かな?」
 確か、と付け加えたのは、緊急事態があればそのような個人的事情は全て吹き飛ばされるからだ。
「わかりました。みんなには、そう言っておきます」
 キラはこう言って頷いてみせる。
「レイも、その時は一緒にいるかな?」
 さりげなくそう問いかければ、彼は小さく頷いて見せた。
 ともかく、これでにらまれることが減ってくれればいい。でなければ今後、越えなければならないハードルが増えるところだった。
 さりげなく、自分の存在でキラの心の中を満たしていこう。そして、最終的に、彼女を手に入れればいい。
 そんなことを考えているとは悟られないように、ギルバートは穏やかな笑みを口元に刻んでいた。






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