「ギルさん」
 起きて待っていてくれたのか。どこか眠そうな表情を隠せずにキラが呼びかけてくる。
「ただいま、キラ」
 起きていなくてよかったんだよ? といいながらも、ギルバートはうれしさを隠せない。そのまま彼女に歩み寄ると、彼女の体を抱き上げた。
「お帰りなさい」
 順番が逆になってしまいました……とキラは首をかしげる。
「気にしなくていいよ」
 それよりも、どうかしたのかな? と彼女の顔をのぞき込みながら問いかけた。
「あのね……」
 言いにくそうな表情でキラが言葉を綴り出す。
「学校のお友達がね……お家にきたいって、言っているの」
 でも、ここは自分の家ではなくギルバートの家だから、自分の判断で『いい』と言っていいものかどうか、わからないから。だから、ギルバートに確認しようと思ったのだ。キラはそう告げる。
「家に?」
 確かに、幼年学校の生徒であれば、そのようなことを言い出すのかもしれない。
「そう」
 この前のパーティからそんなメンバーが増えたのだ。
 キラのこの言葉にギルバートは眉根を寄せる。
「ギルさん?」
 やっぱり、断った方がいいのか……とキラは言外に問いかけてきた。
「とりあえず、お友達の名前を教えてくるかな?」
 本人はともかく、お父さんやお母さんが自分とは仲が悪い可能性がある。そう言うお友達には申し訳ないが、お断りして欲しい。
「あちらにとっても、こちらにとっても、それが一番いいことだからね」
 この言葉に、キラは小さく頷いて見せる。
「ラウ兄さんも、そう言ってたから……」
 だから、わかっているつもりだ。キラはそう言ってくれた。
「そう言ってくれて、嬉しいよ」
 それで、誰が来たいと言っているのかな? と問いかけながらリビングへと移動を開始する。もちろん、キラを抱き上げたままだ。
「えっと……ラクスとアスラン。それと、一つ下だけど、ニコル君。ラクスと仲がいいから」
 後は、アスランのお友達のラスティと……とキラは指を折りながら教えてくれる。
「他の人はね。ラクスが『ダメ』っていったら、諦めてくれたの」
 だから、来るっていっているのはその四人だ……と彼女は口にした。
「ラクスとアスランとニコルとラスティ、ね」
 何やら、ものすごく聞き覚えがあるような気がするのは錯覚だろうか。いや、間違いなく錯覚ではないはずだ。
「彼等なら、大丈夫かな?」
 と言うよりも、自分が考えているとおりの人間であれば、そちらの面ではそれ以上にないくらい大丈夫だろう。問題なのは、彼等本人がそれを望んでいるのかどうかだ。
 保護者の意向が絡んでいるのであれば、別の意味で厄介かもしれない。
「ギルさん?」
 キラが不安そうに問いかけてくる。
「そうだね。明日、詳しい話をしようか」
 キラはもうおねむだろう? とギルバートは微笑みながら口にした。
「まだ、大丈夫です……」
 こう言い返してくるキラのまぶたは、何回も瞬きを繰り返している。
「焦らなくても、大丈夫だよ。学校は明日も明後日もあるだろう?」
 だから、ゆっくりと眠ってそれですっきりとした頭で相談をしよう? とギルバートは口にした。
「何なら、添い寝をして上げようか?」
 笑いを滲ませながらさらに問いかけの言葉を告げる。それに、キラは小さく横に振って見せた。
「おや。残念だね」
 さらに笑いを漏らしながらこう告げる。
「なら、明日の朝にまたお話をしよう。朝食は一緒に取れるはずだからね」
 その言葉に今度は首を縦に振ってくれた。
「では、ベッドまでお運びしましょうか」
 ギルバートは言葉とともに行く先をキラの部屋へと変えた。






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最遊釈厄伝