「ギル……」 久々に顔を見せた年下の友人は、少し疲れたような表情をしている。それはどうしてなのだろうか。 「何かな?」 そんなことを考えながら、ギルバートは言葉を返す。 「成人していなければ、子供は引き取れないのだな?」 しかし、次の瞬間彼が口にした言葉に、ギルバートは笑顔のまま凍り付いた。 「……子供? 君のかね?」 この友人がそれなりにもてることは知っている。プラントの法律で成人と認められるまでまだ二年近くあるというのに、既に両手の指の数ほどの女性と経験をしていることも、だ。だから、その中の誰かが妊娠したとしてもおかしくはないのではないか。 「だとするなら、上の子は私が八歳で作った子供と、言うことになるな」 下の子にしても、九歳か……とラウはため息混じりに付け加える。 「……それは……流石に無理だろうね」 いくら彼が早熟でも、普通、そんな子供を相手にするような女性はいないはず。第一、そのころ彼はまだプラントにいなかったのだし……と心の中で付け加える。 「それでは、誰を引き取りたいのかな?」 ラウの様子を見ていれば、彼にとって大切な相手だ、と言うことは十分に想像が付いた。 「きょうだい、のようなもの……と言うのが一番近い表現だろうね」 正確に言えばもっと複雑な関係なのだが……と彼は付け加える。 「今まではオーブの親戚に預かっていて貰ったのだが……ブルーコスモスに目を付けられたようでね」 二人とも優秀だから、と言われてギルバートも顔をしかめた。 ブルーコスモスが幼い子供達をさらって、自分たちに都合がいいように洗脳しているという噂は本当だったのか。そう思ったのだ。 「……そういうことなら、私が引き取ると言うことで呼び寄せればいい」 自分であれば、既に成人している。それに、いざとなれば《デュランダル》の名を使えばいい。そう言ってギルバートは笑った。 「そうしてもらえればありがたいな」 あの子達をこれ以上、危険と隣り合わせの状況に置いておきたくないのだよ。そういうラウの気持ちもよくわかる。 「子供は、保護されて当然の存在だからね」 まして、ブルーコスモスの道具になんてさせられない。 「迎えに行くのであれば早いほうがいい。こちらの手続きはやっておくから」 安心した前、と口にすればラウは頷く。 「頼む」 そう言ったときはもう、彼はいつもの表情に戻っていた。 翌日、ラウはプラントを後にした。 手続きと言っても、現状で出来ることは二人の子供達の滞在許可をとることだけだ。その後、正式に後見人として引き取ることになる。もっとも、子供達の年齢を考えれば、それはあっさりと出るだろう、と思っていた。 「……五歳と三歳、か」 後一年遅ければ、自分の手元に来なかったかもしれない。 そう考えれば、縁とは不思議なものだ。 「さて、そろそろ出てくる頃かね」 懐いてくれればいいのだが。そんなことを考えながら視線を人々がどっと流れ出してきた到着出口へと視線を向けた。 おそらく、子供達の安全を考えたのだろう。人々がまばらになったところで見慣れた金髪が確認できる。その手には子供達の荷物を載せたらしいカートがあった。 「ラウ」 子供達とあの荷物をいっぺんに見るのは難しいのではないか。そう思って声をかける。 「ギル。来ていたのか」 即座に言葉が返ってきた。しかし、その歩調はあくまでもゆっくりとしたものだ。それは側にいるであろう子供を気遣ってことだろう。しかし、と思ったときだ。 「キラ。いいこだから、レイの隣にのりなさい」 ラウが優しい声でこう告げる。 「兄さん、重くない?」 それにまだ幼い声が聞き返していた。 「大丈夫だ。重いのは私ではなくカートの方だからね」 それに、レイもその方がいいだろう? と彼はカートの方へと視線を向ける。 「ねえさんといっしょがいいです」 即座に言葉が返された。どうやら、ラウが連れてきた子供達は頭の回転が速くなおかつ他人を気遣える優しい人種のようだ。 「荷物なら、私が預かるが?」 だから、と言うわけではないがギルバートはこう声をかける。 「そうすれば、君は子供達の面倒を見られるだろう?」 違うかな? と付け加えれば、ラウは苦笑を浮かべた。 「その前にすることがあるな」 二人とも、と彼はその表情のまま子供達を見つめる。 「この人が、今日からお前達の親代わりになってくださる人だ。本当は私がしてやりたいのだが……まだ成人と認められていないのでね」 そのことは説明したね? と彼は子供達に確認した。そのような込み入った状況まで理解できているのか、と不安になる。だが、子供達のほうは小さく頷いてみせた。 「にいさん、おります」 レイ、と呼ばれた少年がラウに向かってこう言う。 「お世話になるなら、きちんとご挨拶をしなさいって、兄さんが言ったものね」 キラもまたこう言っているのが聞こえる。 「いいこだね、君達は」 しかし、この男にこんな表情が出来たのか。そう言いたくなるほど優しい表情をラウが浮かべた。驚いているギルバートの前で彼は手を伸ばすと荷物の中から彼によく似た金髪の子供を抱き上げた。そして、自分の隣に下ろす。同時に、カートと自分の間にいた子供をそっとその隣に移動させた。 「れい・ざ・ばれるです」 金髪の子供がこう言って頭を下げる。表情が少々乏しいように思うが可愛らしい顔立ちだ。 しかし、それ以上にギルバートの心を鷲掴みにしたのはとばりにいる子供だ。 「キラ・ヤマトです。レイと一緒に、よろしくお願いします」 どこか懐かしい思いを抱かせる色彩を持った少女。その瞳に自分の姿が映っていることに気付いた瞬間、ギルバートは心臓が大きく脈打った。 「ギルバート・デュランダルだよ。よろしく、二人とも」 それでも、大人としての対応をする。だが、キラがおずおずと指しだしてくれた手を握りかえしたときに、何故か体温が上昇したことにも気付いていた。 それが恋だと気付くのは、まだまだ先のことだったが…… |