愛しき花

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 目の前に何故彼女がいるのか。その理由がわからなくてシンは目を丸くする。もっとも、本人にはまだ自分の存在は気づかれてはいない。
 代わりにアスランに見つかってしまったが。
 床を蹴ると彼はシンに柄付いてくる。そして、苦笑とともに口を開いた。
「あちらに置いておくわけにはいかないからな。連れてきた」
 何か副音声が聞こえてきたような気がするのは錯覚だろうか。
 いや、珍しく疲れた表情を隠していないアスランの様子から判断して錯覚ではないだろう。
「それで、キラは?」
 即座に彼はこう問いかけてくる。それはそうだろうな、とシンはあっさりと納得した。
「部屋です。俺は今、二人分の飲み物を取りに行くところですが?」
 自分が戻るまではロックを外すな、と言っておいた。そう付け加える。
「そうか……なら、部屋の方がいいな」
 彼はそう呟く。
「何か?」
 シンは顔をしかめながらそう聞き返す。
「心配するな。キラに危害はない」
 カガリと会わせるだけだ、と彼は続ける。
「……あぁ、そう言うことですか」
 確かに、キラには害がないな。シンはそう納得する。自分達にはどうかわからないが。
「あぁ。それが一番、あいつをおとなしくさせておける」
 深いため息とともにアスランはそう言った。
「わかりました。何なら、ドリンクも人数分もらってきますけど?」
 その方がいいのではないか。そう問いかけた。
「なら、六人分で頼む」
「四人分でなくて?」
 自分とキラ、そしてアスランとカガリなら四人分ではないか。そう思いながらシンは聞き返す。
「イザークとラクスも来る」
 そうすれば、彼はこう教えてくれた。
「多分だが、女性陣三人は同じ部屋にいてもらうことになるだろうな」
 一番無難な判断だろう。
「……ひょっとして、残りの二人の護衛も、俺?」
 問題はこれだ。
「そうなるだろうな」
 苦笑とともにアスランはそう言い返してくる。
「勘弁してくれ」
 反射的にこう言い返してしまう。
「あきらめろ」
 即座にこう言い返される。
「お前以外に手が空いている人間がいない」
 確かにそうだろう。それはわかっているが、とシンはため息をつく。
「命の保証がないんですけど、俺の」
 ため息まじりにこう主張してみる。キラはともかく、カガリ相手では、とそう続けた。
「キラがいるから大丈夫だろう」
 しかし、アスランはあっさりとこう言ってくる。
「あいつは、キラの前では無謀なことはしない」
 しかし、どうしてあんなに辛そうな表情を作るのか。シンがそう考えた瞬間、アスランはすぐにいつもの表情に戻る。
「と言うわけで、がんばれ」
 彼はそう言ってシンの肩を叩く。
「だめでも、骨ぐらいは拾ってやる」
 それは『大丈夫ではない』と言うことではないのか。しかし、自分に決定権はないと言うのも事実だろう。
「……わかりました」
 こうなったら腹をくくるしかない。シンは心の中でそう呟く。
「キラの前でかっこわるいところは見せられませんから」
 そして、こう言った。
「そうだな」
 確かに、とアスランも頷く。
「と言うことで、ドリンクをもらってこい。俺はカガリをキラのところに連れて行く」
 ため息とともに彼はこう言う。それはそれで大騒ぎだろう、と言うことはシンにも想像がつく。
「わかりました」
 とりあえずは目の前のことから片付けよう。シンは心の中でそう呟いていた。

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最遊釈厄伝