「……皆が、無事に私の元に戻ってきてくれればいいが……」 遠ざかっていくセイバーの軌跡をおいながら、ギルバートはこう呟く。 「私には、祈るしかできない、な」 付け加えられた言葉に、クルーゼは小さなため息をついてみせた。 「戦場で、ともに戦うだけが彼らを守ることではあるまい」 彼等が動きやすいようにバックアップをするのも、また、戦い方の一つではないか。クルーゼはそう告げる。 「そうかも……しれないがな」 愛しいものが二人もあの場にいるのだ。冷静でいられるかとギルバートは呟くように口にした。 「……だが、彼等に余計な雑音を聞かせないことも必要かもしれないな」 そして、自分の立場であればそのために動くことができるだろう。ギルバートは視線をクルーゼに向けると微笑んで見せた。 「そのための議長職ではないのか?」 少なくとも、今は……とかすかな笑いとともにこう聞き返す。 当初の目的は違ったかもしれないが……と付け加えれば、彼はさらに笑みを深める。そして、そのままクルーゼの髪に指を絡めてきた。 「そうだな。タヌキやキツネを相手にするのは煩わしいが……あの子達のためであれば、もう少しがんばれるだろう」 お前もいてくれるしな……とさりげなく付け加えられた言葉をどう判断すればいいのか。 「好きに言っているがいい」 それよりも、人前でそんなセリフを口にするな、と思ってしまう。そして、そのまま彼の指から髪の毛を取り戻した。 「そう言えば、会議があったのではないのか?」 そのタヌキどもと……とクルーゼは告げた。 「……忘れていたものを……」 本気で嫌そうな口調でギルバートは言い返してくる。 「だが、彼等のためにがんばるのであろう?」 先ほどの言葉尻をとらえて、クルーゼは彼の肩を叩いた。 「彼等のために、自分ができることはしてやろうと思う気持ちは、私も同じだからな。付き合ってやるよ」 この命がつきるまで……と付け加えれば、ギルバートの笑みが優しくなる。 「あてにしていよう」 こう言い残すと、ギルバートは歩き始めた。 「大丈夫か、キラ」 簡易シートに座ったキラにアスランが問いかける。 「心配いらない」 こう言ってくるものの、それが強がりなのではないか、とアスランは思う。 元々、MSのコクピットは一人で乗り込むことを前提としている。自分たちがともに地球に向かうため、という理由で無理矢理簡易シートをつけたが、その乗り心地は決していいとは思えないのだ。 「キラがそういうなら、信じるけどね」 だからといってそれを告げても、キラは素直に状況を認めはしないだろう。 「でも、ここからはしばらく、オートでも大丈夫そうだし……膝に来てくれてもいいよ」 その方がキラを近くに感じられると付け加える。 「アスラン、あのね……」 「抱っこ、されるのは好きだったろう?」 キラが何か反論しようとしてきた。しかし、そのセリフで封じ込める。 「いつの話だよ、それ!」 幼年学校時代の話じゃないか、とすぐにキラは言い返してきた。 「……エターナルでも、結構抱っこしていたような気がするんだが……」 言葉の裏に微妙な意味をふくませれば、キラも何かを感じ取ったらしようだ。 「ここじゃ、何もできないだろう?」 したくても……笑えば、キラはそれでも動く気配を見せない。 「ただ、ここなら人目はないからね。少しでも近くにいて欲しい……って思うんだけど」 だめかな、とアスランは下手に出る。 「プラントでも、人目があったせいで……キラは側にいてくれなかっただろう?」 それが寂しかったのだ、と付け加えれば、キラは困ったように小首をかしげてみせた。 「アスラン……」 「何?」 「……ここって、ヘルメット取っても、大丈夫だよね?」 先ほどまでとは違った意味で、キラはこう問いかけてくる。 「あぁ。もちろん大丈夫だが……どうかしたのか?」 キラが何を言いたいのだろうか、と思う。だが、シールドの中の彼の表情を盗み見れば、何かいたずらを思いついたようなときのそれだった。 「キラ?」 まぁ、この中で無茶はしないと思うが……と重いながら、アスランは次の言葉を促す。 「膝に乗ったら、キスしてくれる?」 なら、膝に行く……とキラはどこかはにかむような口調で告げてきた。 「もちろん。キラが望むなら、好きなだけ」 アスランはうれしさを隠せないという口調でこう言い返す。 そのまま、先にヘルメットをはずした。それで安心したのだろうか。キラもまたヘルメットをはずす。そして、ふわりとアスランの膝の上に移動してきた。 「……キラには、その色が似合うね、やっぱり」 地球の海の色と同じ鮮やかな《青》のパイロットスーツ。ザフトのデザインなのに、それはまるであの時キラが身にまとっていた地球軍のそれと同じような印象を与える。 それはきっと、この色がキラの印象と結びついているからだろう。 あるいは、ギルバート達もそう考えたのかもしれない。 「そうかな……僕は、普通の色で良かったんだけど」 ディアッカと同じような緑でも……とキラは付け加えた。 「……それは却下」 キラにその色は似合わないだろう。もっと明るい色ならばともかく、と思いながら、アスランは言い切る。 「どうして?」 だが、キラはわからないらしい。 「俺がすぐに見つけられないからだよ」 そんなキラにこう言い返すと、アスランは彼の望み通り、その唇に自分のそれを重ねた。 |