「私は……できれば、君にはここにいて欲しい、と思うのだがね」
 キラの話を聞いて、ギルバートはため息とともにこう言い返してくる。
「……わかってます……でも、僕は、アスランと一緒に行きたいんです」
 離れてしまえば、また戦うことになってしまうかもしれない。
 それだけは、絶対にいやなのだ。
「それで、また辛い思いをしたとしても……それは、僕が選んだことですから……」
 だから、とキラはさらに言葉を重ねようとする。
「……どうせ、アスランを配属する予定なのはミネルバなのだろう?」
 それよりも先に、クルーゼが口を挟んできた。
「あそこであれば、アスランだけではなくレイもいる。心配は少ないと思うが?」
 それに……と彼は眉を寄せる。
「フリーダムのことも……考えねばなるまい」
 ミネルバの中で封印に近い状態だとはいえ、今後、利用したがるものがいないわけではないのではないか、とクルーゼは口にする。あの戦いの時に使用された三機のうち、現存しているのは、あれだけだから、とも。
「ザフトに、そのような者はいない……と信じたいがな」
 だが、可能性がゼロだとは言えない以上、手を打たなくてはいけないだろう……とギルバートも頷く。
「だが、それとこれとは違うのではないかね?」
 フリーダムは、いざとなれば信頼できる者達にプラントに運ばせればいいだけではないか、とギルバートが反論をしている。その様子からは、普段の言動が信じられないほどだ。
「……ギル……キラ君があきれているぞ」
 そんなキラとアスランの様子に気が付いたのだろう。クルーゼが苦笑混じりにこんなセリフを口にした。
「だがな!」
「……本人が行くというのであれば、キラ君の意志を尊重してやりたまえ。囲い込むだけが守ることではないのではないかな?」
 しかし、ギルバートがなかなかおれない。その様子に、クルーゼの苦笑はさらに深まった。
「……何か……議長の印象が……」
 変わってくるぞ、とアスランは小さくため息をつく。
「でも、うらやましいけどね」
 彼等はいつでも対等の立場なのだ。自分のようにアスランに依存しているだけではない。そう言うところがうらやましい、とキラは思ってしまう。
「……バカだな。キラがいてくれるから、俺は前に進めるんだ」
 甘やかしているように見えるのは、自分がそうしたいからだよ……とアスランは囁いてくる。
「それにしても……他人の痴話げんかというのは、見ているのが辛いものだな」
 自分たちも周囲をこんな気持ちにさせていたのだろか、とアスランはさらに言葉を重ねた。
「後で……ラクス達にでも、聞いてみる?」
「……やめておこう」
 思い切り嫌そうな表情でアスランが言葉を返してくる。
「どうして?」
 彼等以外にそう言うことを問いかけられる相手がいないだろう、とキラは思う。
「……あちらにしても、答えに困るだろう?」
 だが、アスランの言葉ももっともか。キラはどこか釈然としないまでも頷いてみせる。
「……仕方がない……後一人、信頼できるものをミネルバへと配置するか」
 キラが実戦に出ずにすむように、手を打つしかないだろうな、とギルバートがため息をつく。
「ともかく、アスランにはこれを受け取ってもらおう」
 そして、いつもの口調に戻るとギルバートはアスランに向けて小箱を差し出した。
「……これは?」
「フェイス、だ。私が信頼できる、と思った者に与えている。ザフト内でも、隊長よりも大きな権限を持つ役職だよ」
 君なら、大丈夫だろう……という言葉に、アスランは驚いている。だが、キラは彼なら大丈夫だろう、と思うのだ。
「それに、キラ君が一緒に行くなら、余計に必要だと思うがね」
 キラを守ることを優先に考えるのであれば……と言われて、アスランは唇をかむ。
「僕のため、ですか?」
 だが、それはキラにしても同じ事だ。
「正確には違うな。君が、地球軍に奪われることがあってはいけない。そして……かつて《ザラ派》と呼ばれた者達にもな」
 前者はともかく、後者は完全に排除できていないのだ……とクルーゼが告げる。
「もっとも……連中にしてみれば、私もその一員らしいが」
 三年前の状況を考えれば仕方がないのだろうが、と自嘲の笑みを浮かべるクルーゼに、キラはどう答えればいいのかわからない。
「……今は違う……と僕たちは知っています、から」
 そんな表情をしないで欲しい、とそれだけをキラは何とか口にする。
「大丈夫だよ。君と、ギルだけは信じてくれていることを、私は知っているからね」
 だから、もう道を間違わない……とクルーゼは微笑んだ。
「……俺は、ザフトではなく《キラ》を優先しますが……それでも、かまわないのですね?」
 二人の会話が終わったと判断したのか。
 それとも今までためらっていただけなのか。
 アスランは重い口調でギルバートにこう問いかける。
「かまわないよ。むしろ……君にはそれを第一に考えてもらいたい」
 そして、キラの判断を手助けしてやって欲しい、と彼はさらに言葉を重ねた。
「キラ君は……全ての先を見通せる人間だ、と私は思っている。ラクス様と同じでね」
 だからこそ、プラントにいて欲しかったのだが……とギルバートはため息をつく。
「どうあっても、君の意志を変えることはできないようだ。ならば、君のために最善の環境を整えることしか、私にはできないだろうね」
「……ギルバートさん」
 プラントのことを第一に考えなければならない彼に、そんなことをさせていいのか、とキラは思う。
「ただ、これだけは約束してくれるかな?」
 しかし、ギルバートの微笑みはキラの反論を封じている。
「かならず……今度は皆でともに、この場に帰ってきてくれたまえ」
 その時は、皆で楽しもう……とギルバートは微笑む。
「そうですね……みんなで、一緒にいろいろなことができればいいですね」
 コーディネイターもナチュラルも関係なく……とキラは付け加える。
「大丈夫だ。今度こそ……そういう世界を、俺たちは作るんだ」
 キラの肩を抱く腕に力をこめながら、アスランはこう口にした。
「……わかっているよ」
 だから、自分もまた戦場に向かうのだ。キラはこう言って笑う。
 そんな彼に、アスランが確かなぬくもりを与えてくれた。