「……何でお前が……」 イザークの言葉はもっともなものだろう、とキラは思う。 「この前、ディアッカと出かけたときに……ザクのOSの話になって……それで……」 話の流れからついつい、改良をすることになったのだ、と説明すればするほど、イザークのまなじりは切りあがっていく。 「僕も暇だったし……ギルバートさんも、ラウさんも……そのくらいならいいって言ってくれたから」 「OSの改良どころか、一から構築してくれた、と」 ディアッカが行っているシミュレーションの様子を見つめながら、イザークはこう告げた。 「……ごめんなさい……」 キラは反射的にこう口にしてしまう。 「何故、お前が謝る?」 しかし、イザークは即座にこう言い返してきた。 「議長とあの人が許可を出したのなら、お前に関しては何も言うべき事はない。もっとも、あれに関しては別だがな」 自分でやるべき仕事を他人に押しつけたことに関しては、と彼は言い切る。 「……気持ちはわからなくもないがな」 さりげなく付け加えられた言葉に、キラは小首をかしげた。 「あの……イザークさん?」 「お前が作ったOSの方が、動きがいい。もっとも……ザクではオーバースペックになるか……」 性能を完全に引き出すことはできる。だが、それだけ機体にかかる負担も大きくなるだろう、とイザークは口にした。 「そうだな。俺やディアッカ……それにアスランであればこのOSの方がいいが、一般兵ではな」 OSに頼り切って機体の負担に気づかないかもしれない、と付け加えるイザークの言葉に、キラは視線を落とす。 「大きなお世話、だったみたいだね」 少しでも彼等の役に立ちたいと思って作ったのだが、実際にはそうではなかったらしい。 「そうは言っていないだろうが」 イザークがキラの言葉を即座に否定する。 「お前が使わせたかったのはディアッカだろう? あいつにとっては十分以上のものだ。もちろん、俺も使いたいと思う。ただ……お前の作ったOSは使う人間を選ぶというだけだ」 だから、気にするな……と彼は笑う。 「……僕が知っているザフトのパイロットは……アスランやディアッカさんレベルだったから……みんなそうなのかなって」 思っていたのだ、とキラは口にした。イザークにしてもクルーゼにしても、彼等に劣らない実力の持ち主だったし、とも付け加える。 「……お前にそう言われると面映ゆいがな」 言葉とともに、イザークは笑みを深めた。 「結局、俺たちは素人同然のお前に勝てなかったということだろうが」 「それこそ……本当に幸運だっただけだよ」 イザーク達が自分を《ナチュラル》だと思って侮ってくれたこと、そして何よりもアスランが本気でなかったからこそ、自分は生きながらえることができたのだ。でなければ、地球に下りる前に自分は撃墜されていただろうと。 「……それも今は、すぎたことだ」 お互いに生き残っているのだからそれでいいだろう、と口にしながら、イザークはキラの肩を叩く。 「それに……問題は機体のスペックなのだから……あるいは、あれなら使えるかもしれないな」 何かを思い出した、と言うようにイザークが眼を細める。 「イザークさん?」 どうかしたのだろうか、とキラは彼の名を呼んだ。 「お二人さん!」 しかし、その答えを聞く前に、シミュレーターからディアッカが姿を現す。 「どうだった、俺の活躍」 そして、そのまままっすぐに二人に歩み寄ってくる。 「活躍だと? キラのOSであれならば、だらしないとしかいいようがないぞ」 「そりゃないだろうが」 イザークの返事に、ディアッカはわざとらしくため息をついてみせる。 「まぁ、ザクであれだけ動ければいいだろう……個人的には、グフでのデーターも欲しいところだがな」 「グフ?」 聞き覚えのない名称に、キラはディアッカに視線を向けた。 「あぁ、新型だ。先日、試作機が完成して……現在テスト中だったはずだ。確かに、乗せてみたいな」 ついでに動かしてみたい、とディアッカは子供のような表情で笑う。 「上申してみるか」 「そうだな」 二人の会話を耳にしながら、キラは小さくため息をつく。友人のために作ったOSがこの戦争に関わるのか、とようやく気が付いたのだ。 「少しでも早く、戦争が終われば、被害も少なくてすむ。そうだろう、キラ」 そんなキラの様子に気が付いたのは、ディアッカの方だ。 「……うん……」 しかし、それでまた、誰かが誰かに憎まれるのだろうか、とキラは思う。 同時に、自分はこうして守られているだけでいいのか、とも考えてしまうのだ。 自分にできることは、戦うことだけなのかもしれない。あるいは、それに関わることだけか。 それに、自分にはいまでも守りたい人たちがいる。 だが、戦場に立つことは――人の命を奪うことは、やはり怖いのだ。 「焦らなくていいって」 どうして彼には、自分が考えていることがわかってしまうのだろうか。頭に置かれた手からディアッカのぬくもりを感じながら、キラはそんなことを考えてしまう。 「三年分、お前は悩んでいいんだから、さ」 状況が許す限り、待ってやるから……と彼は付け加える。 「そうだな。その権利が……お前にはあるか」 イザークもまた、こう言って頷いて見せた。 「ただ……あまり時間が残されていないことだけは事実だがな」 今も、刻一刻と世界の状況は悪化しているのだ。ギルバートやカガリが奔走しているが、時間の問題だろう。まして、ギルバードがしっかりと把握しているプラントの最高評議会とは違い、オーブは一枚岩ではないらしいのだ。 「……僕に、何ができるのかな……」 キラはこう呟く。 「ともかく……今は飯を食うことだな」 ディアッカがからかうようにこう言い返してきた。 「ディアッカ!」 「何をするにしても、体調が重要だろう? ただでさえ、お前は細いんだし……ますますやせたなんてミリィに知られたら、俺が殴られる」 だから付き合え、と彼はキラの肩を叩く。その言葉はもっともなものだ、とキラにもわかっている。しかし、と思うのだ。 「ミリィの名前を出せば、僕がおとなしく言うことを聞く……なんて思ってないよね、ディアッカ?」 そう言って彼をにらめば、その微笑みに苦いものが混じる。 「……許してやれ。お前の面倒を見ていることで、相手に好印象を与えようとしているだけだ」 ディアッカをフォローしているのだろうか。イザークがこの場にそぐわしくないきまじめな口調でこう告げる。 「そう言われても……」 どこか釈然としないキラだった。 |