「……攻撃を受けている、と?」
 信じられないというようにタリアが口にする。
「はい。ジュール隊からはそのように連絡が……どうしますか?」
 言外に告げられたのは《アスラン》の存在だろう。
 現在はザフトの一員ではない彼を戦闘に巻き込んでいいものか。きまじめな彼女のことだからそう考えているのだろう。
「本人に確認してみたまえ。私としては、このまま出撃をしてもらった方がよいかと思うが?」
 クルーゼの言葉ではないが、この間のパイロット達はレイも含めて実戦経験がないのだ。だから、できればフォローをしてくれるものが欲しい。もっとも、それをアスランに求めるのは筋違いだ、と言うこともわかってはいたが。
「ジュール隊の二人とはともに戦った仲だろうし。少なくとも、彼の存在がマイナスになることはない」
 違うかね、という言葉に、タリアはようやく納得したようだ。
「では、そのようにさせて頂きます」
 言葉とともに行動を開始する彼女の姿に、ギルバートはとりあえずの満足を覚える。だが、すぐに別の不安がわき上がってきた。
「彼等を、どうするか……だな」
 クルーゼであれば無理はしないだろう。
 だが、キラはどうだろうか。
 目の前でアスラン達が戦っている光景を見て、彼が黙っていられるだろうか。
 キラの性格を思い出せば、すぐに、難しいだろうという結論が出てしまう。それが彼の長所でもあるのだが、とギルバートは小さくため息をつく。それでも、今、彼を失うことはできないのだ。
「インパルス、発進どうぞ」
 そんな彼の思惑をよそに、次々と機体が発進していく。その中には、アスランが乗り組んでいるザクの姿もあった。
「……戦闘、だと?」
 タイミングがいいのか悪いのか。
 そこにカガリをはじめとした三人が姿を現したのだ。
「どういう事だ?」
 キラの体を抱きかかえながら、クルーゼも問いかけてくる。だが、彼の動きが、実はキラを腕の中から逃さないためだ……と気づいたものがどれだけいるだろうか。少なくとも、抱きかかえられている本人は気づいているらしいが、とギルバートは心の中で呟く。
「どうやら、ユニウスセブンが軌道をそれ始めたのは……何者かが人為的に行ったことらしいのですよ。我々が、あれの落下を阻止するのが気に入らないらしいのですね」
 この言葉に、カガリの表情が豹変する。
「一体……どこの連中だ?」
「それは、我々にも、まだ、わからないのですよ、姫」
 それがわかっていれば、もっと早くこのような行動が起こらないように手を打つ事もできただろう。そう考えれば、口惜しいとしか言いようがない。
「……アスランも、出撃していますね」
 ふっと、キラがこんなセリフを口にする。
「アスランが?」
 嘘だろう、とカガリが驚いたように視線をモニターに移す。
「どうして、そう思うのかね?」
 同じように視線をモニターに向けながら、クルーゼがキラに問いかけている。
「……動きを見れば、わかりませんか?」
 そんな彼に、キラは真顔で言葉を返す。
「多分ですけど……ディアッカとデュエルのパイロットだった人も、出撃していますよね?」
 なら、アスランは大丈夫だ、と彼は付け加える。
「普通わからないぞ」
 ディアッカがいるなら、大丈夫だろうというのは同意だが……とカガリは頷いて見せた。
「操縦に癖があるよ、みんな。だから、わかるって」
 少なくとも、何度か戦った相手であれば……と言われても、カガリは納得できないようだ。もっとも、それが普通なのだろう。周囲の者達も信じられないという表情を作っているところからもそれが伝わってくる。
「なるほど。それだけの洞察力があるから、君はあれだけの活躍ができたのだな」
 しかし、クルーゼだけは平然と頷いて見せた。
「でも……」
 それは、一人ではなかったからだ……とキラは呟くように告げる。
 しかし、それに続く言葉は誰の口からも飛び出すことはない。
 目の前の光景が、それを許してはくれなかったのだ。
 おそらく、所属不明のMSが加えた攻撃で十分に、破砕作業ができなかったのだろう。
「このままでは……」
 地球に甚大な被害が出る。
 カガリの呟きから、誰もが想像したのは荒れ果てた地球上の光景だった。
 だが、それは何に置いても避けなければいけない事柄でもある。
「……本艦はこれから、地球に降下。ぎりぎりまで破砕作業を行います!」
 タリアがきっぱりとした口調でこう宣言をした。そのまま、硬い表情でデュランダル達を見つめる。
「このような事情ですので、議長方はゴンドワナにお移りください」
 そうでなければ、安全を保証できない、と彼女は言外に告げた。そして、本国に戻り、適切な判断をして欲しい、というのだろう。
「私は、このままミネルバに乗艦させてもらう」
 しかし、カガリの口から出たのはこんなセリフだった。
「カガリ!」
「大丈夫だ、キラ」
 どうして、と告げる彼にカガリは微笑み返す。
「ザフトが最後まで努力していた、と言うことを私が見届ければ、あいつらも下手な工作はできないだろうからな」
 だから、自分は彼等と一緒に戻るのだ、と彼女はキラに告げる。
「……でも、カガリ……」
「お前は、向こうで体を治せ。そうしたら、合流してくれればいい……私たちがどこにいようとな」
 そうしたら、手放しで出迎えてやるとカガリはさらに笑みを深めた。その言葉の裏に隠されているものにキラも気が付いたのだろう。彼は唇をかみしめる。
「その時は、私が責任を持って送らせて頂くよ」
 まずは自分が動かなければ、彼等は行動に移ることができない。それがわかっているからこそ、ギルバートは不安を隠しながら立ち上がった。
「諸君らの判断に、まずは感謝しておこう」
 そして、できる限りの援助を行えるよう、手はずを整える……と言外に告げる。それに、タリアがしっかりと頷いて見せた。
「ラウ……それにキラ君も、そう言うことだ」
 すまないな、とギルバートが口にすれば、キラはさらにきつく唇をかみしめる。そうでなければ余計なことを口走ってしまうかもしれない、と思っているのだろうか。そう判断をする。
「仕方があるまい。我々には、ここでできることは……何もないからな」
 キラに聞かせたいのだろう。クルーゼもまたこう告げた。
「……キラ、心配するな。私もアスランも……悪運だけは強いんだ」
 だから、安心しろというカガリの肩をギルバートは軽く叩く。そして、そのままキラとクルーゼを連れてブリッジを後にした。