隠しがあります。タブキー連打か、全て選択で見つかります。


「すまん、キラ……」
 アスランの部屋に入った瞬間、キラは彼に背後から抱きしめられる。
「……アスランのせいじゃないから、仕方がないよ……」
 まさか、こんな事になるとは思わなかったけど……とキラは正直に口にした。
 アスランのことを好きな気持ちは、否定する気がない。
 そして、そうなることもある意味覚悟していた。
 だが、それは全てを知る前の気持ちだ。
 今は……自分が《まがい物》だとわかっているから、そうしていいのか、とも思うのだ。
「キラには怒られるかもしれないけど……俺は、嬉しかった」
 そっと、アスランの手がある明確な意志を持って動く。その瞬間、キラの体が、自分の意志に関係なく反応を示してしまう。
「あの二人が、後押しをしてくれて……なら、大丈夫だよな」
 同時に、彼の唇が、キラのうなじに吸い付いてくる。
「アスラ、ン……」
 そこから伝わってきた刺激に、キラは思わず彼の腕から逃げ出そうと試みた。しかし、それは果たされない。
「大好きだよ、キラ……お前だけを、愛している……」
 だから、と囁いてくるアスランの声がかすれているような気がするのは、キラの錯覚だろうか。
「俺を、受け入れて?」
 お願いだから、とアスランはさらに言葉を重ねてくる。
「……僕、は……」
 行為を拒むためには、事実を彼に告げなければいけないのだろう。  だが、そうすることで彼がショックを受けることはわかっていた。
 しかし、アスランを傷つけたくはない。
 どうすればいいのだろうか、とキラは必死に言葉を探す。
「大丈夫だよ、キラ……全部、俺がしてあげる……だから、俺を拒まないでくれ」
 ゆっくりとはい上がってきた手が、キラのあごにかかる。そのまま、彼は優しくキラを振り向かせた。そして、唇を重ねてくる。
「んっ……」
 それは、キラの唇から拒否の言葉をはき出させたくない、と考えての行為のようにも思える。
 答えを見つけられないまま、キラは流されてしまった。


「……キラ……」
 アスランの吐息が、汗もひき冷えかけた肌を暖めてくれる。
「大丈夫?」
 辛くなかったか、といわれれば答えは『否』だ。だが、それよりも幸せの方が大きいのだから、気にならない。だから、キラは小さく首を横に振って見せた。
「……本当に?」
 だが、アスランにそんなごまかしが通用するはずもない。さらに心配そうな表情で問いかけられて、キラはどうするべきかと悩む。
「ごめん……俺が無理させたんだよな……」
 嬉しすぎて、理性が飛んだ、とアスランは苦笑を浮かべながら体を起こす。そして、真上からキラの顔をのぞき込んできた。
「……ア、スラ……ン?」
 どうしたの、と問いかけようとしたが、のどが痛くて声が出ない。その事実に、キラは呆然としてしまった。
「声を出しすぎたんだね……やっぱり、ごめん……」
 今、水持ってきてあげるから……とアスランはそのままベッドから抜け出そうとする。そんな彼を、キラは無意識のうちに引き留めていた。
「キラ?」
 どうしたの? とアスランはキラへと視線を戻してくる。
「こ、のまま……」
 側にいて欲しい……とキラは彼に訴えた。多少の苦しさは、アスランのぬくもりを感じているだけで忘れられるから、とも。
「でも、のどが痛くなるよ?」
 起きたら声が出なくなっているかもしれない、と彼は聞き返してくる。
 ラクス達のことだ。戦闘に出なくてはいいと言っても、顔を出さなくても言うわけではないだろう。そうなれば、彼女たちは押しかけてくるだろう。そう考えれば、動けないのはともかくとして、声を出せないのはまずい。その程度のことは、キラにもわかった。
 だが、アスランのぬくもりを感じられなくなるのもいやだ、とキラは思う。
「ちょっとそこまでだよ。部屋から出る訳じゃない」
 だから、我慢してくれ……とアスランは口にすると、キラの額にキスを落とす。
 こう言われては、キラも我慢するしかない。
 アスランの手首を掴んでいた指から力――とは言っても、元々さほど力はこもっていなかったのだが――を抜いた。
「俺は、ここにいるから」
 アスランはこう言ってキラの頬に触れながら、ベッドから抜け出す。そして、そのまま手を伸ばして片手で水差しからグラスに水を注いだらしい。
 本当に器用だな、とキラは思う。
 自分だったら、絶対水をこぼすよなぁ、とも。
 それでもアスランのぬくもりが離れずにいてくれるのは嬉しい。
 これが永遠に続くはずがないとわかっていた。
 だからこそ、いつまでも覚えていられるよう、今だけは離れないでいて欲しい。キラはそう思うのだ。
「アスラン……」
 キラはその気持ちのまま、必死に言葉を絞り出す。
「何だ?」
 そうすれば、すぐにアスランが視線を向けてくる。
「大好き」
 そんな彼にこう言い返せば、即座に優しい微笑みが帰ってきた。

 これが、二人にとって一番幸せな時間だったのかもしれない……