その人に出会ったは、キラがラクスの元に身を寄せているときだった。 ラクスの父であるシーゲル。 その片腕とも言える人物なのだ、という。 確かに、その言動は柔らかく、ナチュラルに対する偏見も憎悪も感じられない。ただ、この戦争に対する悲しみだけがキラに伝えられていた。 それは《第一世代》である自分を気遣ってのことか。 それとも、ここでも口に出すことははばかられるキラの《立場》を考えてのことなのか。 そこまではキラにもわからなかった。 ただ、彼が自分に向ける眼差しに親愛の情が滲んでいることだけは錯覚ではないと思いたい。 裏切り者と呼ばれても仕方がない自分なのに、それでも親愛の情を向けてくれる彼に、いつしか心を開いていった。 そして、いつしか彼の訪れを心待ちにしていたのは事実だ。 そんなある日のことだった。 彼が自分よりも少し年下だと思える少年を連れてきたのは。 「この子は、レイ、という。レイ・ザ・バレルだ。君のことを話したらどうしても会いたいと言われてね。シーゲルさまに無理を言って連れてきたのだよ」 良かったら、相手をしてやってくれたまえ。彼――ギルバート・デュランダルはそう言って微笑む。 「ですが……」 自分が相手をしても、彼は退屈をするだけではないのか。 そもそも、自分なんかに興味を持つ人間がいるなんて思えない。 自分なんて、本当につまらなくて何の取り柄もない人間なのだ。守りたい人々も守れなかったほど……とキラは口にする。 「……君は……君であることを誇ってもかまわないと思うのだがね」 そうすれば、ギルバートはため息をつくとそっと手を挙げた。そして、そのままキラの髪を優しくなでてくれる。 その手の動きは優しい。 優しいからこそ、キラの心に悲しみを増長させていると彼は知っているのだろうか。 昔、そんな風にキラの髪に触れてくれた人がいた。 だが、その人はもう二度とキラを許してはくれないだろう。彼は……キラを殺そうとしたのだ。 キラが、彼の大切な友人を殺したから…… そして、彼もキラの大切な友人を殺した。 殺して、殺し合って……それでも死にきれずに自分がここにいる。それが、キラにとっては何かの《罰》だと思えてならない。 目の前で失われていく人々の命を、何もせずに見守っていろ。 そして、人々の恨みを一心に受ければいい。 そう言われたような気がしてならなかったのだ。 「僕は……罪人ですから……彼のためになりません……」 それでも、ここでこうしているのは、ラクスが自分に『生きていて欲しい』と言ったからにすぎない。 それがなければ、自分はきっとここを出て自分が殺した《ザフト兵》の家族に殺される道を選んだのではないか。 そんなことで、彼等の怒りが晴れるとは思えない。 だが、少なくとも《恨み》は薄れるのではないか、と考えられるのだ。 「そんなことはない。君は……君のなすべきことを行っただけだよ」 しかし、ギルバートはこう告げてくれる。 「私も、そしてレイも、そう思っている」 だから、ここにレイを連れてきたのだ、とギルバートは付け加えた。 「この子は……コーディネイターではあるが、かなり特殊な生まれ方をしている」 不意にギルバートがこんなセリフを口にする。 「ギルバートさん?」 一体、彼は何を言いたいのだろうか。キラにはわからない。 「それは、この子の罪なのだろうか」 だが、この問いかけには即座に首を横に振ることができた。 「どんな生まれ方をしても……レイ君は、レイ君だ……と思います。今、どんな風に生きているか、が重要だと」 そしてこう口にする。 それは、キラが考えて出した言葉ではない。おそらく、無意識に出たものだろうと、口にしてからキラは考える。それだからこそ、自分の本心ではないか、と。 「君なら、そう言ってくれると思ったよ」 さらり、とキラの髪をなでながら、彼はさらに笑みを深めた。 「だからこそ、レイに会って欲しかった。そう言ったら、この子と話をしてくれるかね?」 どのようなことでもかまわない。 キラ、という人間が持っている考えを少しでも見せて欲しいのだ、とギルバートはキラの瞳をのぞき込んでくる。 ここまで言われてしまっては、キラとしてもこれ以上拒むことはできない。 「……つまらない、と思うかもしれませんよ?」 言外に了承の意を伝えれば、ギルバートは満足そうに微笑んでみせる。 「では、お願いするよ。レイ?」 そのまま、彼は自分の傍らにいるレイに視線を向けた。 「わかっている、ギル」 大丈夫だ、と彼はどこかぶっきらぼうとも言える口調で彼に言葉を返している。 「すまないね。この子は口べたで」 表情を見ていれば、だいたいのことがわかるのだが……という言葉に、キラは思わず苦笑を浮かべてしまう。 「キラ君?」 一体どうしたのかね? とギルバートが問いかけてきた。 「昔、友達に同じ事を言われたことがあるんです」 そう。彼に、だ。 「そうか」 それ以上彼は聞いてこない。その事実を、キラは少しだけありがたいと思ってしまった。 |