そのころ、ブリーフィングルームを出た面々は食堂へと移動していた。
「さて……あの坊主はキラを説得できるかね」
 どこか楽しげにフラガはこういう。
「大丈夫でしょうね。シンは、しつこいですから」
 それに言葉を返してきたのはレイだ。
「キラさんが『いい』と言うまで、同じ事を繰り返します」
 やがて根負けをすするのだ、と彼はため息混じりに締めくくる。
「アスラン並みのしつこさだな」
 複雑な視線を彼へと向けながら、フラガはそう言う。
「本気で嫌がられているときは引き下がりますよ」
 ただ、今回はキラが本気で言っているのかどうか微妙だから……と彼はため息を吐く。
「本当に、ラウは、好きな相手ほどいじめたいという性格を最後まで貫くとは……」
 キラに忘れて欲しくはなかったのだろう。しかし、残された人間のことも考えればいいのに。そうも彼は付け加える。
「……お前さんは、本当にあいつとは正反対だな」
 あれの性格の悪さは天下一品だったが、目の前の少年は相手を気遣える優しさを持っているようだ。
 何よりも、キラに対する言動だけではなく、自分に対してもそれなりの礼儀を持って接している。
「まぁ、あいつがああなったのは親父のせいだからな。文句はいえねぇが……」
 もし、あの父がもっと違う態度を見せていれば、きっと彼もあそこまで追いつめられずにすんだのではないか。
 だからといってあの男がしたことを許せるわけではないが。
「俺には、まだ、時間がありますから」
 それに、とレイは微笑む。
「俺には守りたい人もいますし」
 だから、世界を憎もうとは思わない。彼は続けた。
「……だが、時間がなくなったら?」
「それでもキラさんは憎まないでしょうね。あの人は……俺に希望をくれましたから」
 もし、ラウもあんな風になる前にそれの存在を知っていれば、きっと違う結果を選んでいたのではないか。だが、彼は自分と違ってそれを知らなかった。
 ただそれだけだ、とレイは続ける。
「そうか……」
 安心していいのかどうか。しかし、今の彼にとってそれは間違い真実なのだろう。そして、来るかどうかわからない未来に悩むのも馬鹿馬鹿しい……とフラガは思う。
「憎むなら俺にしろ、と言おうかと思ったんだがな」
 だが、その必要はなさそうだ……と笑う。
「そうですね。ラウの性格を知らなければ、キラさんを憎んだかもしれませんが……」
 あの性格のせいでどれだけ酷い目にあったことか、と彼はため息を吐く。
「それに……キラさんはキラさんですし」
 幸せになって欲しいと思える、と彼は言った。
「シンも、大切な友人ですしね」
 そう言われて、フラガは頷いてみせる。
「まぁ、キラに関しては心配いらないと思うがな」
 あいつらもいるし、と視線を端の方にいる三人組に向けた。それに気が付いたのだろう。ステラが満面の笑みと共に立ち上がる。
「まったく……結婚もしてねぇのに子持ちの気分だ」
 苦笑と共にこう呟く。
「まぁ、自分より年下の親父がいるんだ。その位なんでもないか」
 マリューもいいと言ってくれたことだし、と言えばレイは微妙な笑みを浮かべる。
「俺としては、自分よりも年上の面倒は見たくないですけどね」
 それこそ、一回り以上、違うではないか。そう言い返す。
「それに、俺は俺です」
「わかってるって。親父はこんなに可愛い性格をしていなかったからな」
 だから、レイはレイとしての人生を生きればいい。そう言えば、彼は小さく頷いて見せた。



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