その後、三国による条約が締結された。
 大西洋連合はその権限を大きく制限されることになる。特に、軍需関係は、だ。
 それでも、民衆の生活には大きな影響が出ないよう、細心の注意をはらって条約が練られたことは言うまでもない。
「もっとも、それでも不満は出るだろうけどね」
 モニターに映る光景を見ながら、キラは小さな声でこう呟いた。
「そうですね」
 だから、自分たちがいるのだが……とシンは言い返す。
「しかし、議長も思いきったことを考えてくれますよね」
 シンは現在、オーブ軍の軍服を身につけている。だが、ザフトの一員でもある。そんな二重軍籍が可能な理由というのを彼は作り上げてしまったのだ。
 同じ理由で、アスランは一応、オーブ軍の軍籍も持っている。もっとも、シンと違って彼がオーブに戻ってくることはないのではないか。女性陣がそれを阻止するのは目に見えている。
「でも、これが一番抑制になるんじゃない、かな?」
 ブルーコスモスの残党の、とキラは首をかしげながら言った。
「だといいですけど」
 それがわかっていれば、今回も戦争なんて起きなかったはずだ。しかし、今回はセイランがいたせいでオーブの足場がふらついていたから、と言う理由もあるのかもしれない。
「それよりも、よかったのですか?」
 考えるとむかつくから、と話題を変える。
「何が?」
 即座にキラが聞き返してきた。
「あそこにいなくて、です」
 オーブ軍の准将でしょう? と続ける。
「でも、キサカさんがいるし……出来るだけカガリと一緒にいない方がいいから」
 自分は、とキラは苦笑を浮かべた。
「きっと、あそこにいると、アスランが乱入してくるし」
 そうなると、記念式典が中止になりかねない……と彼は続ける。
「……その可能性がありましたね……」
 忘れていた、とシンは頷く。
「流石に、人前でカガリやラクスに、アスランをはり倒させるわけにはいかないでしょ?」
 二人とも、人前では本性を隠しているし……とキラは付け加えた。
「特に、ラクスさんはそうでしょうね」
 ザフトの歌姫、である以上、イメージも対セルだ。だから、と頷いてみせる。
「そう言うことだから、ここでいいんだよ」
 上から見ていれば、何があっても対処できるでしょう? とキラは微笑む。
「そうですね」
 まぁ、アスランのことを考えればそれ以外に方法がないだろうが……と思いながら、シンは頷く。
「そう言うシン君はよかったの?」
 行かなくて、とキラは逆に問いかけてきた。
「俺は、キラさんの側にいる方がいいですから」
 確かに、他のみんなに認めてもらえれば嬉しいかもしれない。だが、それ以上にキラに認めてもらえる方が嬉しい。そう言い返す。
「そう言ってもらえると、嬉しいけど」
 でも、遠慮はしないでね? とキラは首をかしげながら付け加えた。
「遠慮なんかしていませんよ」
 シンはそう言って笑う。
「カリダさんにも『くれぐれもよろしく』と言われていますし」
 この言葉に、キラは頬をひきつらせる。
「母さんってば……僕の方が年上だって絶対忘れている」
 本当に、と彼は呟く。
「心配されているんだから、いいじゃないですか」
 実際、キラは時々年上とは思えなくなるし……と付け加えれば、彼は頬をふくらませる。そんなキラの表情を見ているのも楽しい。
 こんな時間がいつまでも続いてくれるといい。
 シンはそう考えていた。






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最遊釈厄伝