「ラクス、何を考えているの?」
 キラが彼女に向かってこう問いかけている。
「決まっておりますわ。キラの幸せです」
 それに彼女は、きっぱりと言い切った。
「ラクス?」
 それって、何? とキラが言い返している。しかし、その気持ちはわかる……とシンは心の中で呟く。
 確かに、他人に自分の幸せを考えてもらえるのは嬉しい。だが、何故、キラにとってのそれが自分なのか。シンにはそれがわからないのだ。
「やっぱり、自覚していらっしゃいませんでしたのね」
 微苦笑と共にラクスは言葉を口にする。
「よく、シン様のお名前を呟いておられましてよ?」
 この言葉に、キラが目を丸くした。と言うことは、本当に無自覚だったのか。あるいは聞かれていると思っていなかったのかもしれない。
「シンの『キラさん』と同じだな」
 ぼそっとレイが隠しておきたかったことを暴露してくれる。周囲の者達の視線がシンへと向けられたのはそれと無関係ではないだろう。
「そう言うお前だって、何かあると議長の名前を口にするくせに!」
 悔し紛れ、と言うわけではないがついついそう反論をする。
「第一、アスランがキラさんの名前を口にする回数よりは少ないぞ」
 その瞬間、あきれたような空気が周囲を満たす。
「……さすがはアスラン、だな……」
「と言うよりも、悪化していそうですわ」
 バルトフェルドの言葉にラクスが冷たい声音で言い切った。
「こうなると、カガリさんのストレスがどれだけたまっているか……」
 見張っていないと、即座に逃げ出そうとするのではないか。そう彼女は口にする。
「まぁ、カグヤの施設は凍結されているだろうから……あいつが使おうとするのはザフトのそれだろうがな」
 カガリのことだ。あいつが近づけば打ち落とせ、と命じているだろうし……とバルトフェルドが笑う。
「笑い事じゃないですよ?」
 キラが慌ててそう言った。
「いいんだよ、笑い事で」
 その前にカガリがちゃんと止めるはずだから、と彼は言う。
「アスランも、その程度じゃ壊れないだろうしな」
 いったいどういう生活をしてきたのか。
「だから、アスランがあんなにバカになったんじゃないですか?」
 たがが外れたのではないか、と言外に付け加える。
「そうはおっしゃいますが……少なくとも、戦争が始まるまでは外面だけはよかったのですよ、あれでも」
 実力だけはあるし、とラクスは言う。
「しかし、よく見ていらっしゃいますね」
 さらに彼女はこう言ってくる。
「だって……俺、あいつ嫌いですから。自分の思い通りじゃない人間は嫌いのようですし」
 人間なんてそんな風に思い通りになるはずがないのに……とシンは言葉を返した。
「なるほど……そう言うことなら、やはり、シンをオーブに派遣するべきだろうね」
 それとも、除隊して戻るかな? とデュランダルは問いかけてくる。
「議長?」
 いったい何を、とシンは思う。
「どちらでも構わないよ? 君の好きにしたまえ」
 そんなことを言われても困る。
 しかし、オーブに行けばキラの側でキラを守れるのではないか。それに、カリダやマルキオにも自由に会えるような気がする。
「ラクス……勝手に人のことを決めないでくれる?」
 キラがため息混じりにこういった。ひょっとして、彼は反対なのだろうか。確かに、自分がいなくても大丈夫だとは思うが……とシンは不安になる。
「でも、シン様が傍にいてくだされば寂しくはありませんでしょう、キラ?」
「それはそうだけど……」
 こういった瞬間、キラは慌てて自分の口を押さえる。
「と言うことで、お二人で話し合ってくださいませ」
 そんな彼に向かってラクスはそう言った。
「そうだね。そうしなさい」
 あんたらは、見合いの仕掛け人か! と言いたくなるような言葉を残してデュランダルとラクスは立ち上がる。そして他の者達を促して部屋から出て行く。
「……ちょっと!」
 キラの制止の言葉がむなしく響いた。



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最遊釈厄伝