政治的なことは、後でカガリと打ち合わせることにする。デュランダルはそう言った。
 では、いったい何のために彼はここに来たのだろうか。しかし、それを問いかける権利は自分にはない。そう考えながら、目の前の彼等を見つめる。
「確かに、それに関してはわたくしたちとではなくカガリと話をして頂くべきでしょうね。そうでなければ、ロンド・ミナ様でしょうか?」
 キラはそう言って頷く。その彼の表情が少し硬いのはどうしてだろうか。
「そんなに緊張しないでくれないかな? キラ君」
 今日はこれを渡したいと思っていたのだ。そう言いながら、デュランダルは周囲を見回す。
「……大丈夫です。ここにいるみなさんは、僕が母の実の子供でないことは知っていますから」
 それに関しては、と付け加えると言うことは、他にもキラには秘密があると言うことなのか。
「なら、構わないかな?」
 そう言いながら、デュランダルはキラの前に一枚のディスクを差し出す。
「これは?」
「ヴィアの……君達の母君の写真だよ。我が家にあった分だがね」
 持っていないだろう? と言われて、キラは小さく頷く。
「ありがとうございます」
 そして、淡い笑みと共にこういった。
「気にすることはない。私も彼女に薫陶を受けた身だからね」
 そう言ってデュランダルは微笑む。
「彼女は素晴らしい研究者だった。コーディネイターであろうとナチュラルであろうと、尊敬できる人物には代わりがない」
 シンが今でもキラの父ハルマを尊敬しているように、と彼はさりげなく付け加える。そんなこと、彼に告げた覚えはないのに、とシンの方が驚く。
 だが、直ぐにその答えがわかった。きっと、レイが彼に教えたのだろう。それについて、文句を言うつもりはない。キラがどこか嬉しそうな表情を作ったからだ。
「……なら、こちらからはこれを……」
 言葉と共にキラは同じようにディスクを差し出した。
「シン君が持っていてくれたディスクの中身と、僕の手元にあった両親の研究資料をまとめてあります」
 ただ、と彼は真っ直ぐにデュランダルを見つめる。
「これを戦争の道具にはしないで頂けますよね?」
 そして、こう問いかけた。
「もちろんだよ。少なくとも、私が生きている間は決してこれを使って戦争を起こすようなことはさせない」
 安心してくれていい。そう告げる。
「……その後のことも心配いりませんわ、キラ」
 不意にラクスが口を開く。
「ラクス?」
 何、と言うようにキラは首をかしげる。
「わたくし、プラントに戻ろうかと考えておりますから」
 この一言は、流石のデュランダルも想像していなかったらしい。
「ラクス嬢?」
「もっとも、プラントがわたくしを受け入れてくれれば、の話ですが」
 そのまま、楽しげな視線を向ける。
「それは……諸手をあげて賛成させて頂きますが……」
 しかし、何故、急にそのようなことを言われたのか……とデュランダルは彼女に問いかけた。
「以前から考えてはいたのですわ」
 プラントの未来を担うことが自分の義務だと考えていた。しかし、それをしなかったのは、戦争を終わらせるためと言って世界を混乱させた責任を取らなければいけないと思っていたこと。
「何よりも、あなたが心配だったから、ですわ、キラ」
「僕?」
 何で、とキラは口にした。
「……決まっておりますわ。アスランがいたからです。カガリさんは、キラさえご自分を取り戻せば収まると思っておりましたけど……アスランは違いますでしょう?」
 どう考えても、彼は自分自身が作った檻の中にキラを飾っておきたいようだから、と彼女は付け加える。
「やっぱ、そう見えるよな、あいつの言動」
 ぼそっとシンは同意の言葉を呟く。それが耳に届いたのだろうか。ラクスがシンを見てふわりと微笑んだ。
「ですが、今はフラガ様桃土手来てくださいましたし、アスランもザフトにおりますもの」
 これ以上の好機はないのだ、と彼女は続ける。
「確かに。アスランをオーブに近づけなければいいだけのことですからね」
 笑いながらデュランダルは頷く。
「ですが……それでも不安と言えば不安ですわね」
 だから、と彼女は笑みを深める。
「よろしければ、キラの補佐としてザフトからお一人、オーブに派遣していただけません?」
 自分が戻れば、アスランはこき使わせてもらう。それと同様に、これをお願いしたい、と彼女は付け加えた。
「バルトフェルド隊長もわたくしと共にプラントに戻ってくださるそうですから。そうなると、キラについていけるパイロットがいなくなりますの」
 だから、キラのフォローが出来る人間が欲しい。必要ならば、機体はファクトリーで用意をしよう。そうも彼女は告げた。
「なるほど。確かに、オーブには眠れる獅子でいてもらわないといけませんからな」
 そのためには、キラ以外にもパイロットは必要だろう。
「ですが、フラガ氏がおられるのでは?」
 即座にデュランダルは聞き返す。
「俺は、マインドコントロールを受けていたとはいえ、地球軍の大佐だったからな」
 あまり目立たない方がいいだろう、とフラガは言う。
 どうやら、そのあたりのことは既に彼等の中で話し合いが終わっているようだ。もっともキラだけは蚊帳の外だったみたいだが。
「なるほど。では、意中の人間がいると?」
「えぇ。よければ、シン・アスカ様がいいですわ」
 デュランダルの問いかけに、ラクスはあっさりと言う。
「俺?」
 しかし、シンにしてもそれは青天の霹靂だった。



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