デュランダルが話したい内容は、きっとあのことだろう。そう考えて、キラは時間の合間を縫って手元にあったディスクの内容をコピーしておく。
 それだけではない。
 三年前手に入れた父の研究記録も、だ。
 実を言うと、どちらも見るのは辛い。自分が《人間》ではないと思い知らされるからだ。
「そんな僕が、幸せになれるはずなんて……ないよね」
 彼女たちはああいってくれたけれど、とそれは真実を知らないからだろう。
 知られたら、嫌われるかもしれない。
 それが怖い、と思ってはいけないのか。
「……でも、いずれはばれるよね」
 しかし、話す勇気がない。それではいけないのだ、とわかっていても……だ。
「ムウさんなら『気にするな』と言うんだろうけど」
 流石にそういうわけにはいかない。
 彼がずっと傍にいてくれたら、あるいはこんなことを考えずにすんだのだろうか。そんなことを考えても意味はないとわかっていても、ついつい考えてしまうのは、自分が弱いからかもしれない。
「……大丈夫。母さんだけは、変わらずにいてくれるから」
 きっと、フラガもだ。
 それだけでいい。一人ではないのなら……と思う。
「……きっと、レイ君もデュランダルさんも、同じだよね」
 彼の事情を知っているのなら、とキラは呟く。
「でも、シン君はどうかな?」
 しかし、その後でこう続けたことは、自覚していなかった。

 カガリからのメールを確認して、デュランダルは小さなため息を吐く。
「さて……これであの子を救える可能性が見えていたね」
 それもかなり高い確率で、と彼は続ける。
「だが、それだけでは不十分か」
 レイだけを救えればいいのではない。キラも救わなければいけないのだ。
「本当に、君は余計なことをしてくれたよ」
 気持ちはわからなくもないが、とため息を吐く。
 自分たちがどのように生まれたのかを、誰かに覚えていて欲しい。それも少しでも長く。そう考えてラウが選んだのがキラだったのだろう。それはきっと、彼が母親にそっくりだから、ではないだろうか。
 しかし、彼は予想以上に優しい少年だった。
 軍人であれば割り切れることも、彼は割り切ることが出来ない。
 それはきっと、彼を育てた人たちが優しい人たちだったからだろう。
 普通の子供と同じように――いや、それ以上に愛情を注いで彼を育ててきたのだ。だから、彼は世界を動かすだけの力を得たのではないか。
 それを損なってはいけない。
「……大変だが、彼には味方も多いからね」
 自分は、彼等のために環境を整えてやればいい。
「ついでに、彼の周囲にいる大人達にも協力をお願いしようか」
 子供達には幸せな未来を見せてやりたい。そのために、出来ることをしよう。そう呟く。
「……さて。一番の適任はミネルバだろうが……」
 あの艦にはアスランがいる。彼をキラの近くに連れて行くのはためらわれるのだ。
「何か理由をつけて、オーブにでも行かせようか」
 ふっと、そんな考えがわき上がってくる。
「……ふむ……それが良いかもしれないね」
 事前に彼女に連絡を入れておけば、適切な対処を取ってくれるだろう。それに、彼女もある程度鬱憤がたまっているはずだ。それを解消するための人身御供としては彼以上に適任はいないのではないか。
「彼にとってもいいお仕置きだろうしね」
 では、そのようにメールを書こうか。
 そう判断をすると、彼はキーボードに指を走らせ始めた。



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