虎の子の武器を破壊されたから、だろうか。 その後直ぐに地球軍は降伏をした。 最後まで強硬に反対をしたジプリールは、周囲にいた軍人達の手によって捕縛されたという。 だが、それについてキラがどうこう言うことはなかった。気にならなかったわけではない。ただ、目の前に、今、優先すべきことがあったのだ。 「……本当に?」 目の前で微苦笑を浮かべている相手に向かって問いかける。 「心配かけたな、坊主」 言葉とともに大きな手がキラの髪をかき乱す。それは間違いなく彼の仕草だ。 「ムウさん……」 しかし、彼の顔には大きな傷跡がある。それが何を元が立っているのか、確認しなくてもわかった。 「やはり、ネオさんがムウさんだったのですね」 でも、どうして……とキラは呟く。 あれだけ色々としても記憶は戻らなかったのに、と付け加える。 「まぁ……それは……」 その瞬間、何故かフラガが視線を彷徨わせ始めた。 「坊主、その人はなぁ。また、敵のビーム砲の攻撃をMSで防いだんだよ」 彼のそんな仕草にいやなものを感じていれば、脇からマードックが答えを教えてくれる。 「バカ! 内緒にしておけって……」 「無理だと思いますぜ。俺が言わなくても、ラミアス艦長かバルトフェルド隊長がキラに教えますって」 そう言ったところで、マードックは何かに気付いたというような表情を作った。 「マードックさん?」 どうかしたのか? とキラは聞き返す。 「そういや、坊主なんて気安く呼んじゃいけなかったんですな。准将閣下」 苦笑と共に彼はこういった。 「……それはやめてください。せめて、ここでは」 それよりも、とキラは視線をムウへと戻す。 「マリューさんの所には行ったんですか?」 その瞬間、彼はさらにあさっての方向へと視線を向けた。 「まだ、行っていないわけですね」 まったく、とキラはため息を吐く。 「ダメじゃないですか」 「そうは言うがな、キラ。どんな表情をすればいいのか、わからないんだって」 ネオであったときの記憶もしっかりと残っている。だからこそ、彼女にどのような表情を向ければいいのか、わからないのだ。彼はそう続けた。 「今更じゃないですか?」 全部、彼女にはばれているだろう。微笑みながらキラがそう言えば、隣ではマードックが頷いている。 「お前達なぁ!」 「ぐだぐだ言うのは男らしくないですよ。それとも、マリューさんのことは諦めるんですか?」 彼女は人気があるんですよ? とさりげなく付け加えた。 「モルゲンレーテでも色々と声をかけられていましたっけ」 うんうんと頷きながらマードックもキラの言葉に同意をしてみせる。 「ステラちゃん達のこともありますしね」 さらにキラはこういった。 「……お前ら……俺をからかって楽しんでいるだろう?」 やがて、ため息とともにフラガがこう言ってくる。 「別に、からかっていませんけど?」 とりあえず、マリューと話をして欲しい。そうすれば、きっと、いい方向へと進むと思うから……とキラは心の中で呟く。 「そうそう。ちーとばっか心配をかけてくれた誰かさんに嫌がらせをしているだけですって」 苦笑と共に彼は付け加える。 「……マードックさん……」 ため息混じりに彼の名を呼ぶ。 「まだこのくらい、可愛いもんですぜ。バルトフェルド隊長はとっておきのコーヒーを持ってラクス嬢ちゃんと来ると行っていましたし」 カガリに知られたらどうなるか。さらにそう付け加えられて、フラガは頬をひきつらせた。 「早々に艦長を味方につけておくのが一番の得策だと思いますが?」 ダメを押すようにマードックが言う。 「坊主に着いていってもらえばいいじゃないですか」 さらに彼はそう付け加える。 「そうですね。それが良いと思いますよ」 キラもそう言って頷く。 「……それしかないんだろうが……なぁ」 行きづらいんだよな、と彼は言う。そんな彼の背後から近づいてくる人影にキラだけではなくマードックも目を見開く。 「どうかしたのか?」 「大丈夫。そう言うと思って、私の方から会いに来てあげたわ」 問いかけてくるフラガの声に被さるようにマリューの声が周囲に響く。 「マリュー!」 「と言うわけで、ゆっくりと話をしましょう?」 彼女の微笑みに、フラガは首を縦に振るしかできなかった。 |