作戦までのカウントダウンが始まった。
「……キラさん達、大丈夫かな……」
 パイロットスーツを身につけながら、シンはこう呟く。
「いきなりどうした?」
 レイが即座に問いかけてくる。
「オーブ軍の絶対数を考えるとさ。いくら、フリーダムが強くたって、苦戦しそうだな、って」
 不安になっただけだ、とシンは言い返す。
「大丈夫だろう。あちらにはバルトフェルド隊長もいらっしゃる。それに、何人か、ザフトからパイロットがエターナルに配属されているはずだ」
 だから心配はいらない、とレイは言い返してくる。
「第一、キラさんはお強いぞ」
 さらに彼はこうも付け加えた。
「それも知っている。きっと、キラさんはみんなを守りきれるんだ」
 でも、とシンは続ける。
「そんなキラさんを、誰が守るんだ?」
「シン?」
 何を言っているのか、とレイが視線で問いかけてきた。
「確かに、キラさんは強いよ。でも、そのせいでみんなが頼り切ってしまったら、キラさんは休む間もないじゃないか」
 疲労がたまっていっては、いつかは大きな失敗をしてしまうかもしれない。そうならないように、少しでもその役目を肩代わりできる人間がキラにはいるのか。それが不安なのだ、と続ける。
「フリーダムは、動力が核なんだろう?」
 補給がなくても動くから、余計に心配だ。
 シンがそう付け加えれば、ようやく納得できたといようにレイは頷いてみせる。
「確かに。あの人は無理を無理と知っていてもやりそうだ」
 しかし、自分たちに何が出来るだろうか……と彼は難しい表情で付け加えた。
「そうなんだよな。一番手っ取り早いのは、さっさとジプリールを捕まえるか、この世から消えて貰うことなんだろうけど……」
 それが難しいのが難点だ、とシンはため息を吐く。
「とりあえず、敵の中継基地と本体を早々に壊滅させれば、それだけ、キラさんの負担を減らせるだろうな」
 それが一番だろう、とレイが言う。
「やっぱ、それしかないか」
 だよなぁ、とシンは呟く。
「それに……俺たちにはもっと重要な役目があるぞ」
 次の瞬間、意味ありげな笑みと共にレイがそう言ってきた。
「レイ?」
 何だ、と言外に問いかける。そうすれば、彼はさりげなく視線を移動させた。その先にはある人物の姿がある。
「……そうだったな……」
 あれがいたんだ、と頷く。
「あれを制止することが一番重要だと思うぞ」
「確かに」
 彼が邪魔をしに行けば、キラの集中力が削がれる。その結果、彼が危険に陥ることも否定できない。
「最悪、撃ち落としてもいいものかどうか、確認しておくか」
 セイバーを、とシンは呟くように言う。
「そうだな」
 レイもそれに頷いてみせる。
「まぁ、艦長は『ダメだ』とはおっしゃらないだろう」
 それでも、ルナマリアには内緒にしておいた方がいいだろうな。そう続けた彼にシンはまた頷き返す。
 しかし、そんな彼等より先に、同じようなセリフを口にしている人間がいるとは、思いもしない彼等だった。

 いや、それは彼等だけではない。
 背中に氷を放り込まれたような悪寒に襲われ、アスランは周囲を見回す。だが、彼が周囲からどう見られているかを表すかのように、その傍には誰もいない。
「何だったんだ、今のは」
 気のせいと言ってしまえばそれまでだろう。だが、そう思えないのは、これと同じような感覚を味わったことがあるからだ。
「しかし、ここにはラクスはいない」
 いくら彼女でも、一瞬デコの距離を飛び越えてくるのは不可能ではないか。
 しかし、相手はあの《ラクス・クライン》だ。
 何をしてくれるかわからない。そう考えている。
「まぁ、いい。こっちのことをさっさと終わらせて、会いに行くからね」
 キラ、と気分を変えるように呟く。
 そんな彼の脳裏からは、先ほど、イザークから投げつけられた言葉は綺麗さっぱりと消え去っていた。



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最遊釈厄伝