キラが作業を終えたのは、それから三十分ほど経ってからのことだった。
「あしあとは消したし、偽装も万全、と」
 そう言いながら、キラはいきなり何かをプリントし始める。
「……キラさん?」
「このあたりの地図とファッションモールの情報。何もしなかったら、逆に疑われるから」
 偽装ついでに情報を集めておいたのだ。キラはそう言って笑う。
「いったい、いつの間にそこまで……」
 感心したようにレイが呟く。
「なれているからだって」
 キラは笑みに苦いものを滲ませるとそう言い返してきた。
「それよりも、精算してでようか」
 これ以上ここにいても意味はない。それよりは外に出てあちらと合流した方がいいのではないか。キラはそう言った。
「そうでしょうか」
 問いかければ、彼は小さく頷いてみせる。
「あくまでもカンだけど、あちらが厄介ごとに巻き込まれているような気がするんだよね」
 微苦笑と共に付け加えられた言葉は予想もしていないものだった。
「連絡、ありませんよ?」
「……でも、ラクスだから」
 きっと、護衛の人が振り回されていると思う……と言われて、ある可能性がシンの脳裏に浮かぶ。
「……買い物、ですか?」
 ぼそっとそれを口にすれば、キラの苦笑が深まる。
「ちょっと鬱憤弾って多用だからね、ラクス」
 誰かのせいで、と彼は続けた。
「……ルナも、こういうときはストッパーにならないだろうしな」
 むしろ、喜々として便乗しそうだ。レイはそう断言をする。
「否定できない」
 いや、ルナマリアのことだ。喜々として付き合うのは目に見えている。その事実を知ったら、メイリンが騒ぐこともわかっているだろうに、とシンはため息を吐く。
「そう言うことだからね。合流をしようかな、と思うんだけど……」
 ダメかな? とキラは首をかしげた。
「是非ともそうした方がよろしいかと」
 自分たちでも彼女を止められないかもしれない。だが、キラの言葉であればあるいは……とレイは続ける。
「そうだな。キラさんの言葉ならルナでも従うか」
 きっと、ラクスが聞き入れるから……とシンも頷く。
 しかし、だ。
 本音を言えば、自分だってキラと買い物や何かをしてみたい。そうすれば、普通のデートのように見えないだろうか。
 そんなことを考えた瞬間、何故か頬が熱くなる。
 そもそも、自分とキラが一緒に歩いていても、兄弟か友達にしか見えないことはわかっている。
 でも、と心の中で付け加えた。
 そう言う、戦争とは切り離された経験をキラとしたいなと思うのだ。
「なら、行こうか」
 途中でアイスでも買おうね……とキラは軽い口調で告げる。
「キラさん?」
「いいでしょ、その位」
 むしろ、そうする方が普通の観光客のように見えるだろうし……と彼は微笑んだ。
「わかりました」
 キラがそれでいいというのであれば、自分たちは異論はない、とレイは頷く。
「そうですね」
 たとえ、それが偽装だったとしてもちょっと嬉しいかもしれない。そう思いながらシンは頷く。
「じゃ、行動開始だね」
 キラはそう言うとプリンとされた紙へと手を伸ばす。
 そのまま、とりあえず精算のためにフロントへと向かう。その背中を、当然、シンとレイも付いていった。



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