キラの実力はザフトのトップでもかなわない、とは聞いていた。
 しかし、話しに聞いているだけと実際に目の当たりにするのとは衝撃の度合いは違う。
「……すごいな……」
 ハッキング用のツールをキラが一から構築し始めたのはここに着いてからのことだ。なのに、もう完成したらしい。
 その呟きが耳に届いていたのだろう。
「なれているからね」
 それに、下手に持ち込めば目立つから……とキラは付け加える。
「普通は一から構築する方が目立つと思うのですが……」
 キラの場合、メールの返信を書くような迷いのないキータッチでプログラムを書き上げてしまった。だから、周囲の者達は何も気付いていないのではないだろうか。
「後は、マザーへの侵入だけど……多分、前に使ったルートが残っているはずだから、多分、それは直ぐに出来だろうけど……問題は、そこから先かな?」
 そう呟きながらも、彼の指は止まることがない。その鮮やかさに目を離すことができない。
「とりあえず、ネオさんが言っていたものを探さないと」
 ジプリールのことはザフトに任せておいて大丈夫だろう。しかし、武器に関しては違う。
 これでどれだけの命が失われるか。
 いや、失われる命が少数だとしても、そのようなものを存在させてはいけないのではないか。
 そう言いながらも、手早くキラは情報を分類していく。
「……読み取れない」
 一瞬だけモニターに現れるファイルの名前なんて、とシンは呟く。
「パイロットなのに」
 速度について行けないなんて、と付け加える。
「心配するな、俺も同じだ」
 安心できないかもしれないが、とレイが囁いてきた。
「と言うよりも、ファイルの形式で必要かどうかを判断しているだけだって」
 そう言う重要文書なら閲覧制限か暗号がかけられているはずだから、とキラは言ってくる。
「まぁ、逆に偽装している可能性はあるけど、そうする手間を考えれば、かなり低いかな?」
 第一、そうしたら他の人間がわからなくなるだろうし。
 その言葉から、キラがかなりこの作業になれているのだ、と推測できる。
「……これ、かな?」
 そうしている間にも、キラは目的のファイルを見つけたらしい。
「確認は後にするとして……とりあえず落としておこう」
 他にもあるかもしれないし、といいながら、キラはそれをコピーした。
「大丈夫ですか?」
「確認だけなら、モバイルで出来るから」
 シンの問いかけにキラはこう言い返してくる。
「後は、これもかな?」
 ぶつぶつと呟き始めたのは、きっと集中を始めたのだから、だろう。これ以上変な質問をしてキラの集中を妨げてはいけないような気がする。だから、とシンは視線をレイへと移した。
「気付かれた様子は?」
「今のところ、なさそうだな」
 さすがはキラ、と言うべきなのか。そう彼は言い返してくる。
「だが、注意だけは怠るな。先ほどからこちらを見つめている者がいる」
 気のせいかもしれないが、と言いながらもレイは視線だけをある方向へと向けた。シンもまた同じように視線だけをそちらへ向ける。
 確かに、どこか不審な態度を取っているものが確認できた。
「確認した」
 こういいながらも、さりげなく周囲へと視線を移動させる。他にも気になると言えば気になる者がいる。だが、確証はない以上、下手に動かない方がいいだろう。
「飲み物でも取ってくるか?」
 だが、いざというときのために周囲の様子を改めて確認しておきたい。そう思って、シンはこういう。
「そうだな……俺が取ってこよう。キラさん、何がいいですか?」
 レイは即座に立ち上がりながら問いかける。
「ん〜っ」
 しかし、キラの耳に届いているのか。生返事だけが帰ってくる。
「アイスコーヒーでいいんじゃないか?」
 熱いのだと、この様子では不安だ。そう思いながらシンが言う。
「だな」
 しかし、それはある意味見慣れた光景でもある。だから、レイは苦笑を浮かべつつ頷いて見せた。



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