周囲の様子を、キラはどこか懐かしげに見回している。
「キラさん?」
「……昔、ここに住んでたんだよね。僕もアスランも」
 問いかけるように呼びかければ、彼はこう言葉を返してくれた。
「もう、六年ぐらい経っているのかな?」
 そう言って首をかしげる。
「そうなんですか」
 シンは思わずこう聞き返す。
「コーディネイターであるキラさんとアスランがここに住んでいた、と言うことは……まだ関係が最悪になる前のことだな」
 そう言う話を聞いたことがある、とレイが口にする。
「そう。ここでアスランとレノアさんと会ったんだ」
 そのころには、まだ父も母も自分の傍にいてくれた。何も知らずに幸せな日々を過ごしていたんだよね……とキラはどこか遠くを見るような眼差しで付け加える。
「アスランにとっても、そうだったのかな?」
 彼の場合、両親を二人とも亡くしている。だから、自分にあれだけ固執するのだろうか。キラはそうも付け加えた。
「でも、それってあいつの勝手な感情じゃん」
 キラのためではなく自分のためではないか。シンはそう言い返す。
「確かに……あの人の言動はやりすぎだね」
 レイもこういって頷く。
「キラさんとそのころの思い出話をするだけならばきっと、カガリさんもラクス様もあれほど警戒しないのだろうけど」
 問題なのは、キラにそれ以上のことを望もうとしていることではないか。
 レイは小さな声でそう付け加える。
「酷くなったのは、キラさんが自分の意志で行動し始めたからだって、ラクスさんが言ってた」
「なるほど」
 キラが自分で行動をするのがいやなのか、とレイは呟く。
「だろうな」
 まったく、本当にいやな奴……とシンは締めくくる。
 幸いなことに、キラは周囲を見回していて自分たちの会話に気付かなかったらしい。
「それで、どこに入るんですか?」
 ほっとしながらこう問いかける。
「どこでも同じだろうから、一番最初に見つけたところに入ろうと思っていたんだけど……意外とないね」
 もっとあったような気がしているのに、とキラは呟く。それは、きっと、彼の記憶の中にあった光景だろう。それとこの場が変わっているのだろうか。
 でも、六年も経っていれば仕方がないのではないか。
 そう思ったときだ。
「キラさん、あそこにあるのはそうではありませんか?」
 レイがある方向を指さしながらこういってきた。
「そうみたいだね」
 にっこりと微笑みながらキラが頷いてみせる。
「なら、あそこに入ろうか」
 まるで、おやつを買いに行こうか……と言うような気軽さでキラは口にした。しかし、彼がこれからしようとしていることはそれとはレベルが違う。
 ばれた時点で、地球軍の軍人が大挙して押しかけてきてもおかしくはないのだ。
 だが、キラがそんなミスをするはずがない。
 そして、万が一そうなったとしても自分とレイがいれば大丈夫だ。
 だから、何も心配はいらない、とシンは自分に言い聞かせる。
「……しかし、カガリさんも何を考えているのでしょうね」
 自分に与えられたIDを見ながらレイはこう呟く。
「そう? ある程度信憑性があると思うよ」
 キラはそう言って微笑む。
「まぁ、偽造とはいえ本物だから、ばれることはないと思うし」
 問い合わせが言ってもちゃんと対応してもらえるから。そう言いながら、彼は目的地へと歩き始める。
「でも、どうせなら兄弟じゃなくて別の存在になりたいんだけどな」
 遠さな声でシンはこう呟く。
「頑張れ」
 そんな彼に向かって、レイはこう言ってくれる。それだけではなく、まるで力づけるかのように背中を叩いてくれた。



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最遊釈厄伝