『遅い!』
 モニターから聞こえてきたのはこんな言葉だ。
「ごめん」
 反射的に首をすくめながら、キラはこう言い返す。
「ちょっと、あれこれ考え事をしていたものだから」
 一人でじっくりと考えたいことがあったから、と続ける。
『それも、仕方がないことだろうが……』
 確かに、貴様には考えなければならないことがたくさんあるのだろうが、とイザークは一応の理解を示してくれる。
『だからといって、ブリッジを離れるとは何事だ!』
 しかし、それでも許せない一線があるのだろう。しっかりと怒鳴られる。
 それに何と言い返せばいいのだろうか。別に好きでブリッジを離れているわけではないのに、とキラが心の中で呟く。
「それは仕方がないわよね」
 だが、キラが口を開くよりも早くミリアリアが言葉を口にした。
「五分おきに連絡を入れてくるバカがいるんだもの」
 しかも、視界の隅にキラの姿が映っただけで暴走してくれるし……と彼女は続ける。
『あぁ、あれか……』
 誰のことを指しているのかわかったのだろう。イザークがいやそうな表情を作った。
「ご理解頂けて幸いだわ」
 にっこりと微笑みながらミリアリアは言い返す。
 ひょっとして、個人的に彼に恨みを抱いていたわけではないだろうな。そう思わずにはいられない。
『とりあえず、だ』
 小さなため息とともに彼は口を開く。
『あれについてはディアッカが何とかする』
 その言葉に一番驚いたのは本人だったらしい。
『俺?』
 素っ頓狂な声が耳に届いた。しかし、それを気にするものは誰もいない。
『それよりも、そちらの立場を確認しておきたい』
 ジプリールの身柄をオーブが確保したいのか。それとも、とイザークは続けた。
「オーブの立場はジプリールの身柄を確保してその罪を追及すること。その身柄を確保するのは自分たちでなくても構わない」
 最終的に、ブルーコスモスを壊滅に追い込めるなら……とキラは続ける。
『わかった。そう言うことなら、こちらとしても異論はない』
 どちらが捕らえたとしても、ジプリールは正当な手段で捌かれるだろう。それで十分だ、とイザークは頷く。
『となると、後は居場所の割り出しだが……』
 月のどこにいるか、と彼は呟いた。
「アルザッヘル」
 その時だ。第三の声が割り込んでくる。
「……ネオ、さん?」
 それが誰のものか、キラにはわかった。
「恐らく、だが……アルザッヘルだろう。あそこには地球軍の虎の子が隠されているからな」
 恐らく、プラント本国やオーブ本土を攻撃できる……と彼は続ける。
 その言葉に、アークエンジェルのブリッジにいるものだけではなくモニターの向こうにいるイザークすら息をのんだ。
 重苦しい空気が周囲を包む。
『……おっさん、生きてたのかよ……』
 だが、それを打ち砕いたのはディアッカのこんな言葉だった。
「……誰がおっさんだ!」
 即座に彼が言い返す。
『おっさんはおっさんだろう?』
 何を言っているのか、とディアッカは首をかしげる。
「ディアッカ……それについては、ちょっと訳ありで……終わったら、説明するから」
 今は黙っていてくれるかな? とキラは言った。
「そうよ。あんたは大切な大切なイザークさんの面倒を見ていればいいわ」
 少しは空気を読みなさいよ、とミリアリアが続ける。その言葉にディアッカが凍り付いた。
『ともかく、それに関してはこちらで確認しよう。お前達は、一度、月のコロニーに下りてくれないか?』
 そして、内部の様子を確認してきて欲しい。イザークはそう付け加える。
『ザフトの船では無理でも、オーブの船なら可能だろう?』
 月にもオーブは拠点を持っているはずだ、と言う言葉にキラは頷いて見せた。
「何なら、ザフト側から誰か連れて行く?」
 船そのものは無理でも、数名であればこちらのメンバーに紛れ込ませることは可能だ。キラはそう言う。
『そうだな。そうさせて貰おう』
 人前は任せておけ、と彼は続ける。
「わかった。でも……アスラン以外にしてね」
『もちろんだ』
 即座にイザークは言葉を返してくれた。



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