数年ぶりの宇宙空間は、微妙な感傷をもたらしてくれる。
 いったい、ここでどれだけの命が失われただろうか。
 そんなことを考えながら、キラは周囲を見回す。
「キラ」
 そんな彼の耳にラクスの声が届く。
「何?」
 どうかした? といいながら、視線を向ける。
「もうじき、エターナルが合流できるそうですわ」
 それと、ザフト側から話がしたいと連絡は来ているそうだ……と彼女は続けた。
「ありがとう」
 キラはそう言って微笑みを浮かべた。
「エターナルが来ていると言うことは、ミーティアユニットも?」
「えぇ。使えますわ」
 アスランさえ馬鹿なことをしなければ、新型を渡してもよかったのに……と彼女は続ける。
「新型?」
「えぇ。フリーダムとジャスティスの後継機を開発させていましたの。とりあえず、ジャスティス優先で」
 しかし、アスランはザフトに行ってしまった。そんな人間に新型機を渡せるはずがない。そして、キラも現在の所、フリーダム以外の機体に乗り込むつもりはないだろう? と彼女は問いかけてきた。
「そうだね」
 確かに、フリーダム以外の機体に乗り込むつもりはない。しかし、それはきっと彼女が考えているのとは違う理由からだろう、と思う。
 だが、それを伝えるつもりはない。
 あくまでも自分のワガママだから、とキラは心の中で付け加えた。
「しかし、ザフトからって……ミネルバじゃないんだよね?」
 話題をそらすかのようにこう問いかける。
「えぇ。アスランからではありませんわ」
 ご安心くださいませ、とラクスは微笑む。
「イザーク様、からでしたわ」
 その表情のまま彼女はこう教えてくれた。
「イザークさん?」
「はい。ディアッカ様もご一緒でしたわ」
 相変わらず仲がよろしいようで、と微笑む彼女に、キラは苦笑を浮かべるしかない。確か、そのせいでディアッカがミリアリアに振られたのだ。
「あまりの仲の良さに、しっかりと、ミリアリアさんがイヤミを言っておられましたし」
 ディアッカが気の毒に思えるのは、自分が男だから、だろうか。
「まぁ、アスランに対するものよりはやわらかなものでしたが」
 彼女にしても丁度いい気分転換になっているのだろう。そう言ってラクスは笑う。
「……今も、通信はつながっているの?」
 ごめん、ディアッカ……と心の中で呟きながらキラは問いかける。
「いえ、キラが戻ってきたらこちらから連絡すると言って、ラミアス艦長が切っておしまいになりましたわ」
 ちょっと残念だった、と言うラクスにキラは小さなため息を吐く。
「なら、急いだ方がいいね」
 わざわざ連絡を入れてきたのだ。何か理由があるのではないか。そして、自分がその場にいれば、ミリアリアもラクスも自制してくれるだろう、と思う。
「そうですわね」
 何かわかったのかもしれないから、とラクスも頷いてみせる。
「じゃ、行こうか」
 そう言って、キラは床を蹴った。
 その後を、当然のようにラクスが付いてくる。
「今度こそ、戦争が終わればいいね」
 小さな声でキラはこう言った。
「大丈夫ですわ、キラ」
 必ず終わります。即座にラクスはこう言い返してくれる。
「きっと、シン君も同じように言われましてよ?」
「……何で、シン君?」
 予想外の名前を聞かされて、キラは思わずこういってしまう。
「その答えはご自分で見つけてくださいませ」
 コロコロと笑いながら、ラクスはそう言い返してきた。



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最遊釈厄伝