「忘れ物、か」
 何なのかな、それは……とカガリは呟く。
「それよりもカガリ! キラを止めろ」
 危険だ、とアスランが口にした。
「大丈夫なのか?」
 それには答えずにカガリはキラに問いかける。
「多分。何か、憑き物が落ちたような表情だったし……これが契機になるかもしれないでしょ?」
 彼に記憶を取り戻して貰いたい。その気持ちは自分も同じだから、とキラは微笑む。
「だが、あいつは地球軍だったんだぞ!」
 ディオキアもクレタ沖も、あいつがセイランをたきつけていたのではないか……とアスランが叫ぶ。
「とりあえず、アークエンジェルのみんなは『構わない』と言ってくれたし、バルトフェルド隊長も、妥協してくれたから」
 だから、大丈夫、と彼はアスランを無視して言った。
「責任は、僕が取るから」
 だから、と続ける。
「あぁ。心配するな。オーブ軍はお前に預けたんだ。だから、お前が決めたことに反対はしない」
 そして、キラに危険が及ばないなら止めるつもりはない……ともカガリは言う。
「ま、あれのことはマードック達に任せておけばいいか」
 それよりも、と彼女は視線を移動させた。
「お前の方がどう考えても危険人物だよな? アスラン」
 今だって、シンとレイがいなければ何をしでかしてくれたかわからないだろう? といいながら、彼女は立ち上がる。その手に、この部屋には似つかわしくないあるものを見つけて、キラは頬をひきつらせた。いや、それはシン達も同じだ。
「カガリ?」
 何をするのか、とアスランが言外に問いかけている。
「ずいぶんと察しが悪くなったな、お前は」
 前はこれだけでわかっていたのに、ずいぶんと鈍くなったな……と付け加えると同時に、彼女はそれを振り上げた。そのまま、遠慮なく彼の頭にそれを振り下ろす。
「さて、これで静かになったな」
 話し合いが出来る、と言いながらカガリは手にしていたそれを放り出した。
「……まぁ、そうかもしれませんね」
 苦笑と共にレイが言葉を返している。
「でもさ。あいつ、本気で言っていたし……だからこそ、キラさんには危害を加えないと思うけど?」
 シンはシンでこういった。
「……そうだよな。キラだってその位の判断は付くだろうし、バルトフェルド隊長が妥協したと言うことはそう言うことなんだろう」
 それ以上に、誰もが彼に記憶を取り戻して欲しい、と思っているのかもしれないが。カガリはそう付け加えた。
「戦争が終われば、多少は余裕がでるでしょうから……議長に話をしておきましょうか?」
 レイが確認をするように問いかけてくる。
「いや、それはいい。後で考えても間に合うだろうしな」
 それよりも先にジプリールを何とかしなければいけないだろう、とカガリは言い返す。
「……それに……宇宙で何かを思い出してくれるかもしれない」
 彼女はそう付け加えた。
「そうなってくれれば嬉しいけど」
 ふっと思い出した、と言うようにキラは口を開く。
「そうなっても、できればデュランダル議長に時間を取って頂ければ、と思うんだけど」
 この言葉に、カガリとレイが目を丸くする。
「議長がそちら方面の専門家だ、とお聞きしたからね」
 苦笑と共に付け加えた。
「相談の内容は、シン君も知っているから」
 こういえばシンが首をかしげる。
「ひょっとして、ハルマさんの?」
「そう。本当はもっと早く相談すればよかったのかもしれないけれど、信じていいかどうか、判断できなかったから」
 自分が納得できるまで内緒にさせて貰ったのだ……とキラは続けた。
「シンも教えてくれなかった、あれですね」
 小さなため息とともにレイが言う。
「ごめんね、シン君」
 と言うことは、彼は本当に自分との約束を守って内緒にしていてくれたのだ。そう言う正確だとは思っていたが、実際にその事実を聞かされると申し訳ないとしか言えない。
「気にしないでください。約束しましたから」
 そう言ってシンは微笑んでくれる。
「命令違反をしたわけではないから、安心してください」
 レイもこういう。
「でも、帰ったら概要だけでいいから教えてくれるな?」
 キラから許可が出たようだから、と彼はシンへと問いかける。
「許可が出たからな」
 シンはそれに頷き返した。
「でもさ。その前に、こいつを何とかしないとダメじゃねぇ?」
 気を失っているアスランを見つめながら付け加える。
「まぁ、それはハイネにでも頼んでおこう」
 きっぱりと言いきる彼に、キラは苦笑を浮かべるしかできなかった。



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最遊釈厄伝