「……あいつらは、どうした?」
 フラガのパーソナルデーターを持った彼ではない人物がこう問いかけてくる。
「あの三人でしたら、とりあえず眠って貰っています」
 マリューが穏やかな口調でそう言い返す。
「セイランに遺されていたデーターから、必要だと思われるものは用意できましたから……恐らく、命にも別状はないでしょう」
 ただ、元の体に戻れるかどうか。それはわからないらしい……彼女は続ける。
「そうか」
 ならば、そちらの方はとりあえず心配はいらない。
 彼はどこか安心したようにこういった。
「しかし、あんたらも変わってるな。敵兵なんて放っておけばいいだろう?」
 だが、直ぐに皮肉げな表情を作って言葉を綴る。
「そういうわけにはいきません」
 内心の動揺を出さないマリューは強いと思う。自分だったら、そんなことは出来ないだろう、とカガリは心の中で呟く。
 同時に、目の前の相手が憎らしいとも思う。
 やっぱり、フライパンで殴ってやろうか。
 そんなことまで考えてしまう。
「……まぁ、あいつらのことには感謝している……」
 処分されてもおかしくはないから、と彼はため息混じりに付け加えた。
「……お前らが馬鹿なことをしない、と言うのであれば、ここに連れてきてやるんだがな」
 彼の呟きに反論するようにカガリはこう言い返す。
「その方があいつらの精神状態にもいいようだし」
 お前に合わせろと騒いでいるからな、と続けた。
「……いいのか?」
「構わない。もっとも、お前らが何かをすると言うのであれば、その限りではないが」
 念のために、外には監視をおかせてもらうが……とカガリは言い返す。その瞬間、目の前の男が浮かべた表情は自分たちの記憶の中のそれと重なる。
 やはり、彼はムウ・ラ・フラガあいつなのだろうか。
 それとも、あいつも知らないところで双子の兄弟がいたのか。
 こんなことを考えてしまうのは、自分たちの例があるからだ。
「そんなことをしても、俺たちには何の利益もないな」
 どのみち、自分たちは切り捨てられた存在だ……と彼は言う。
「かといって、お前達に協力も出来ないぞ」
 自分たちは、と続けた。
「わかっている。ジプリールの居場所なら、お前らに聞かなくてもわかりそうだからな」
 地球軍の動きを見ていれば、とカガリは言葉を返す。
「ともかく、捕虜らしくしていろ」
 ここにいれば、いやでも彼と比較してしまう。自分ですらそうなのだから、マリュー達ならばなおさらではないか。
 だから、さっさとここを離れよう。
 その上で、これからどうするのかを話し合った方がいいのではないか。
「ラミアス艦長。そろそろキラが帰ってくると思うが?」
 そう考えながらマリューに声をかける。
「そうですね」
 どこかほっとしたようにマリューは頷いて見せた。
「あいつらとどうするかは後で聞きに来る。それまでに考えておけ」
 こう言い残すと、カガリはきびすを返す。そのまま大股に歩き出した。彼女の後をマリューも付いてくる。
「本当。一発で記憶を取り戻す方法があればな」
 廊下に出たところでカガリはこう呟く。
「……仕方がありません。こればかりは……」
 生きていてくれただけで良いと考えるしかないのではないか。マリューはそう言って微笑む。だが、その笑みは弱々しいものだ。
 いや、彼女だけではない。キラも同じような表情を作っている。それを見ているのが辛い、と思うのは自分のワガママだろう。
 それでも、と考えてしまう。
「やっぱり、フライパンでぶん殴るか」
 記憶が戻らなくても少しは鬱憤がはれるのではないか。そんなことも考える。
「それは……さらに悪化する可能性もありますから」
 やめてください、とマリューが言う。
「生きていてくれただけで、いいんです」
 あの状況で、と彼女はさらに付け加える。
「……そうか……」
 こう言い返すしかできないカガリだった。



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