重苦しい沈黙が周囲を満たす。 「ムウさん、というのは、ムウ・ラ・フラガのことですか?」 それを破ったのはレイだった。 彼の問いかけに、キラは小さく頷いてみせる。しかし、その彼の表情が強ばっているように感じられるのはどうしてだろうか。 「だから、アスランの顔でも見れば何か思い出すかなって」 可能性は低いが、とキラが直ぐに苦笑を浮かべる。 「カガリは『フライパンで殴ればいい』って言うけど……命の危険があるからってみんなが止めたんだよね」 その言葉に、誰もがアスランへと視線を向けた。 次の瞬間、納得したように頷いたのは、彼がどのような目にあったのかを思い出したからだろう。 コーディネイターである彼をいちげきで昏倒させられるだけの腕力の持ち主だ。ナチュラルであれば確かに命の危険があるかもしれない。 しかし、アスランを行かせるのも不安だ。 そう考えたときだ。 「……キラさん」 レイが堅い声音で彼に呼びかける。 「何?」 「俺も同行させて頂いて構いませんか?」 彼に会ってみたい、と言うが、知り合いなのだろうか。 「君が?」 キラにしても予想外の言葉だったのだろう。驚いたように目を丸くしている。 「はい。ダメでしょうか」 レイがさらに言葉を重ねた。それにキラは考え込むように首をかしげる。 「そうだね。君にはその権利があるかもしれない」 やがて、ため息とともにこういった。 「ついでに、アスランを止めてくれると嬉しいんだけど」 どうせ、こちらの頼んだこと以上のことをするのはわかりきっているから、とキラは続ける。 「わかっています」 それに、レイは即座にこう言い返す。 「では、艦長に許可をいただいてきます。ハイネは無理でもシンは一緒に逝けると思いますので」 そのまま彼は立ち上がる。 「お願いするね」 キラの言葉に彼は頷いて見せた。 そのまま、キラはバルトフェルドと同じヘリに。シン達はアスランと共に別のヘリへと乗り込んだ。 「レイ」 操縦桿を握りながら、シンは隣にいるレイへと呼びかける。ちなみに、アスランは後部座席に縛り付けられているせいで、邪魔をすることはないだろう。そうでなくても、この状況で手を出せばどうなるか、わかっているはずだ。 「何だ?」 その呼びかけに彼はすぐに言葉を返してくる。 「……知り合い、なのか?」 そう言えば、キラが彼の顔を見て別人の名前を口にしていたが……と思いつつ問いかけた。 「言いたくないなら、いいんだけど」 こう付け加えたのは、間違いなくいいわけだ。 「知り合い、と言うわけではない。俺自身は面識がないからな」 だが、とレイは続ける。 「ラウとは顔見知りだったらしい。キラさんも驚いたとおり、俺と彼は似ているからな」 だから、刺激にはなるのではないか。レイはそう続ける。 「そうか」 確かに、それならば何かのきっかけになるかもしれない。だから、彼はいきなりあんな事を言い出したのか。 「ムウ・ラ・フラガは『エンデュミオンの鷹』と呼ばれていたほどのパイロットだ。個人的にも興味がある」 それがどこまで本気なのかシンにはわからない。 だが、それはお互い様だろう……と思う。 「とりあえず、その人が本物の《ムウ・ラ・フラガ》で記憶を取り戻してくれるなら……キラさんにとっては安心できることだろうな」 レイはこう付け加える。その瞬間、何故かシンは『気に入らない』と思ってしまった。 |