セイランは排除できた――と言うよりも、ザフトの攻撃とジプリールの動きによって殊勝な者達が命を落としたと言った方が正しいのか――が、肝心のジプリールを逃がしてしまった。
「……だから、お前らが……」
 それは全てキラ達のせいだ、とアスランは言おうとしている。それが許せなくて、シンはためらわずに彼の後頭部に蹴りを入れた。
 もっとも、レイやハイネも似たような行動を取っていたから誰も咎めないだろう。
「ともかく、よっぽど慌てて逃げ出したんだろう。連中にとってヤバイ資料を遺していってくれたし」
 オーブ側がそれをこちらにも回してくれたから、今後の作業が楽になったか……とハイネが笑う。
「こいつを流せば、いくら大西洋連合とその同盟国とはいえ、今まで通りの言動は取れないはずだからな」
 もっとも、後は政治家の仕事だが……と付け加えながら、アスランの襟首を握りしめている。
「……そうですね」
 それをキラが苦笑と共に見つめていた。
「ともかく、こちらは準備ができ次第、宇宙にあがる予定です」
 セイランの不始末だから、オーブとしては最善の方法を採りたい。そう考えている、と彼は続ける。
「それは、アスハの?」
「アスハとサハクの意志です」
 グラディスの問いかけにキラはそう言った。
「もっとも、カガリとロンド・ミナ様は本土を離れられませんが」
 代わりに、自分が先頭に立つことになるだろう……とキラは続けた。
「キラさん?」
「……キラ、お前……」
 彼の言葉に、シンだけではなくアスランも驚いたように彼の名を呼ぶ。
「カガリとも話し合ったんだけどね。軍の人たちもフォローしてくれると言ってくれたし、黙ってみているなんて出来ないでしょう?」
 マルキオも「そうした方がいい」と行ってくれたから、とキラは続ける。
「だが、お前……」
「ザフトの軍人のアスランには、何も言われたくないんだけど。これに関しては」
 にっこりと微笑んできつい言葉を投げつけた。
「……どうして、キラさん、なんですか?」
 その迫力に気おされながら、シンが問いかける。
「確かに、キラさんはフリーダムのパイロットですけど……」
 でも、民間人ではないのか。そう付け加える。
「そうだね。確かに、僕は普通の家の子供として育ったけど……状況が変わっていたら、それはカガリだったかもしれないし」
「……へっ?」
 それは、どういう意味だろうか。いや、何となく想像が付くような気がするが、確認するのが怖い。
「と言うと、あの話は本当だったのでしょうか」
 しかし、レイは何かを知っていたようだ。こう問いかけている。
「あの話?」
 何なんだよ、とシンは思わず口にした。
「僕とカガリは、実は双子だって言う話。理由があって別々に引き取られただけ」
 さらり、とキラはこう口にする。
「双子!」
 想像もしていなかったセリフに、シンは思わずこう叫んでしまった。
「結構似ているって言われるんだけど……気が付かなかった?」
 それにキラは苦笑を浮かべながらこういう。
「気付かなかったって言うか……考えても見なかったって言った方が正しいと思いますけど……」
 そもそも、印象が違うから……とシンは言い返す。
「でも、いいんですか?」
 先頭に立つと言うことは、戦うと言うことと同義ではないか。キラは戦うことを厭うていただろう、と続けた。
「今でもやる隊とは思わないけど……ジプリールを放っておくと、また、同じようなことが起きるかもしれないからね」
 だから、ここできっぱりとけりをつけないと……とキラは言い切る。その言葉には、確かな力を感じる。
「とりあえず、君達が急いで宇宙にあがりたいというのであれば、オーブの施設を利用できるように計らうから……と言うのがカガリからの伝言。どうするかはみなさんで決めてください」
 協力できることはするが、それ以上の余力はない。彼はそう続ける。
「ありがとう。話し合って決めさせて頂くわ」
 グラディスも微笑みながら言葉を返す。
「それで、直ぐに戻るのか?」
 ハイネが不意にこう問いかけた。
「そうですね。多少なら余裕はありますが」
 それが何か? とキラは聞き返す。
「これはちゃんと押さえとくから、ちょっと話をしたいな、と」
 何かあったようだし、と付け加えるハイネに、キラは微妙な表情を浮かべる。それでも、しっかりと頷いて見せた。



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