パーソナルカラーの地球軍の機体。
 その動きに、キラは見覚えがあった。いや、彼だけではなく他の者達にもあったのではないか。
「……まさか……」
 そんなはずはない。
 キラは心の中で呟く。
 しかし、目の前の相手の動きは、間違いなく《彼》のものだ。
「クローン?」
 可能性は否定できない。
 だとしても、と唇を噛む。
「確認しないと」
 どちらにしても、そうしなければ自分が納得できない。
 だから、と呟くと照準を合わせる。
 そのまま、引き金を引いた。
 動力部だけを撃ち抜いたから後は安全に地上まで落ちてくれるだろう。
「指揮官機と思われる。回収よろしく」
 通信機でそう言うと、キラは他の機体も次々と撃ち落としていく。
 だが、その中に他の機体と違う動きを見せるものもあった。その反応速度から判断して、ナチュラルとは思えない。だが、とキラは表情を強ばらせる。
「まだ、あんなことをしていたのか!」
 投薬などによって強引に身体能力をコーディネイター並みに引き上げる実験。
 ある意味、非道とも言えるそんな実験を、とキラは呟く。
「……人間は、実験材料じゃないのに……」
 それがわからないから、ブルーコスモスは戦争を商売の道具として考えているのではないか。そして、セイランも、だ。
 それを許してはいけない。
 しかし、だからといってそれを彼等に転化するのは違うだろう。
 だが、彼等を救えるのだろうか。
「何でも、努力していないうちから『出来ない』って言ってはダメだよね」
 だから、とキラはそれらの機体に向かってフリーダムを近づけていく。
 その時だ。
『キラさん!』
 何故かシンの声が聞こえた。反射的に周囲の様子を確認すれば、こちらに近づいてくるザフトの機体が見えた。それも、二機、だ。
「ひょっとして、シン君と……アスラン?」
 シンはともかく、アスランは来て欲しくなかったかもしれない……とキラは心の中で呟く。
「お願いだから、邪魔をしないで!」
 邪魔をするような行動を取ったら、撃ち落とすかもしれないよ! ととりあえず警告を出しておく。
『キラ……』
 お前は、と言い返してきたのは、やはりアスランだった。
「いいから、邪魔をしないで!」
 きっぱりと言い切る。
 そのまま、意識の隅へと彼の存在を追いやる。本当は意識の外に放り出したいのだが、それでは対処が遅れる可能性があるから、その程度で諦めることにしたのだ。
 代わりに目の前の二機に意識を集中する。
『キラさん! ザフトから奪取されたのは三機です。後一機、どこかにいるはず』
 シンがこう言ってきた。
「だとするなら、あの機体のフォローに?」
 そう考えた瞬間だ。見たことのない機体が地上を走っているのが見えた。
『見つけた! あいつは、俺に任せておいてください』
 シンがこう言ってくる。
「お願い! でも、できれば殺さないで」
『わかってます』
 シンは直ぐに言葉を返してくれた。
『お前はまだ、そんな世迷い言を!』
 なのにアスランはキラの言葉を非難する。
『うるさいな、あんたは!』
 それにキラが言葉を返すよりも先に、シンが怒鳴った。
『ぐだぐだ言っている前に、動けよ!』
 出来ないなら、黙ってみていろ! と彼は続ける。
「僕が言うこと、なくなっちゃった」
 ならば、敵に集中しよう。自分の主義を貫き通すために、とキラは心の中で呟いた。



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最遊釈厄伝