しかしセイラン――いや、この場合、ユウナ・ロマだろうか――がこれほどバカだとは思わなかった。
「……前例があるから、だろうけど」
 あの時と今回とでは状況が違う。何よりもそう言った人間の信頼度が違うだろうが、とカガリは続ける。
「お前にお父様ほどの人望があるはずないだろう?」
 カガリが忌々しそうに呟く。
「その事実を認識できておられないのですわ。前例はこうだった。だから、今回もそうなるに決まっている。そう信じておられたのでしょう」
 そう言うところが『認識が甘い』と言うのだ、とラクスが酷評をする。
「しかし、これがチャンスだ、と言うことも事実だな」
 あちらは、自分たちが結託しているとは知らないはずだ。
「もっとも、あちらがこちらの思惑通りに動いてくれれば、の話だが」
 中には、オーブやアークエンジェルに遺恨を持っているものもいるのではないか。
 その者達が暴走しなければいいのだが、とバルトフェルドは呟く。
「それに関しては、デュランダル議長の求心力を信じるしかありませんわね」
 彼がしっかりと人心を把握していれば、オーブを攻撃しようとする者はいないはずだ。
「いざとなればわたくしが顔を出しますが」
 さらにラクスはこういった。
「わたくしの言葉を聞いてくださる方がどれだけいらっしゃるかはわかりません。それでも、少しはお役に立てるでしょう」
 ラクスの言葉にキラだけではなくカガリも驚いたように彼女へと視線を向ける。
「ラクス」
「大丈夫ですわ、キラ。わたくしはいずれ、表に出なければならない日が来るとわかっていましたから」
 だから、心配はいらない。
 その日が来ただけだ……と彼女は続けた。
「もっとも、それは最終手段ですけれど」
 何事もなければ、自分は今は表に出ない。そう言ってラクスは微笑みを浮かべる。
「それよりも、二人とも」
 代わりにバルトフェルドが口を開く。
「そろそろ出撃しないと、な」
 いい頃合いだ、と彼は続ける。
「わかりました」
 確かに、タイミングを逃すわけにはいかない。だから、とキラは頷く。
「そうだな。早々にあいつらを確保して……ついでに、ジプリールを公衆の面前で捌かなければいけない」
 そうすることでブルーコスモスの影響を排除しようとする意志が皆が伝わるのではないか。カガリも頷いてみせる。
「カガリのことは心配するな。俺だけではなくオーブのパイロット達もいるからな」
 だから、キラはジプリールが連れてきているかもしれないブルーコスモスのパイロットの相手をすることに集中しろ。バルトフェルドがそう言う。
「バルトフェルド隊長の言われるとおりだ。こちらはミナ様もいるから、心配するな」
 カガリもそう言って微笑む。
「うん。でも、気をつけてね」
 カガリに被害が及んだ時点で、今回の作戦は失敗したも同義だ。そうキラは言い返す。
「わかっている。自分の立場は十分に、な」
 そのまま、彼女は歩き出した。もちろん、キラも、だ。
「それよりも、私としてはあいつがお前の邪魔をしないかどうか、それが心配だ」
 歩きながら、カガリはこう言ってくる。
「って、アスラン?」
「そうだ」
 戦場に出ているのは確認できている、と彼女は頷いてみせる。どうやら、オーブ軍から情報を得ているらしい。
「その時は構わないから撃ち落としてしまえよ?」
 しかし、このセリフは何なのか。
「だって……」
「かまわん。失敗するわけにはいかないんだからな」
 そうだろう? と彼女は続ける。
「そう、だね」
 でも、やはり気が引ける……とキラは心の中で呟く。だから、シン達が止めてくれるといいな……と心の中で呟いていた。

 だが、予想外の再会――と言っていいのかどうかはわからない――が彼等を待っていた。



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